駐車場の空き区画増に悩むマンションに、カーシェアサービスの導入は有効か?

1月17日付けの日経新聞に、「駐車場の解約増 悩む管理組合 都市部マンション、車離れ進む」という記事が掲載されていました。

 

www.nikkei.com

本記事の要約は以下の通りです。

■ 都市部のマンションで、駐車場の解約が目立つようになった。駐車場代は修繕積立金の有力な原資となるだけに、マンションの維持には痛手だ。だが対策費が必要になると、車を所有しているかどうかで住民間に対立が起きがち。

■ マンションで駐車場を解約する動きが目立つのは、高齢者の免許返納が増えているうえに、若い世代では車を所有しなくなっているためだ。

■ 多摩地区のマンションでは、この3年近くで260台のうち50台の空きが発生。駐車場収入が年間数百万円減った。

■ 都内のマンション(約30戸)では、ここ数年で駐車場の空きが目立つようになり、大幅に減少した駐車場収入を賄うため、オリックス自動車のカーシェアサービスを導入し、2台分の駐車場代を同社から受け取っている。

■ このマンションは駅から近く、住民以外の利用も見込めること、また駐車場が表通りに面しており私有地に立ち入る必要がないため、大きな反対もなく導入できた。

■ マンションの駐車場は機械式も多く、平面式に比べて維持費がかかるだけに、空きの発生はマンションの会計に重くのしかかる。一般的に維持費は年間1台あたり1万円程度。25年前後で更新が必要だが、1台100万円程度かかる。

■ 空き対策には、駐車場を住民以外に貸し出したり、機械式の台数を減らしたりして維持費を減らす方法がある。ただ、現状では手つかずの例が多い。

■ NPO法人が19年に全国の管理組合に調査したところ、空き駐車場が増えたのは35%。空きが増えた組合で対策中は1割未満にとどまり、約6割が何もしていなかった。

■ 例えば機械式駐車場の台数を減らす改修費や撤去工事費を管理組合の財源から出すことについては、駐車場を利用しない住民から反発が起きやすく、住民の合意形成が難しい面がある。

■  利便性向上という観点でみると、カーシェアは車を持つ持たないの対立軸を和らげる策となる。「機械式駐車場の台数を減らすのと同時にカーシェアも導入しよう」という提案も生まれている。

■ 発想の転換も有効だ。横浜市のマンションでは、住民の駐車区画の入れ替えを行うとともに、点在していた空き区画を集約し、それを訪問医療や介護車両の停車スペースにした。

■ ただ、共用施設である駐車場の用途変更には、区分所有者の4分の3以上の賛成が求められる。一人ひとりの住民が、マンションの行く末を見通しながら取り組む必要がある。

 

 

当社が顧問を務めるマンションでも、駐車場の空き区画の増加に悩んでいるマンションがいくつかあります。

 

たとえば、川崎市にあるマンションでは、20年前の分譲販売時は「全戸分の駐車場がある」ことをセールストークにしていましたが、一度もフル稼働することもなく、その後経年的に解約が増え、全体の4割も空き区画が発生していました

 

しかも、駐車場のほとんどが機械式のため、定期保守点検や部品交換等の修繕にお金がかかってしまいます。

 

長期修繕計画で見込まれているパレットの交換代金を含めると、保守点検料を含めてパレット1台につき年間8万円の維持費がかかることがわかりました。

 

そのため、このまま遊休化した設備を放置できないと判断し、このマンションでは足掛け3年ほどの時間をかけて理事会や修繕委員会で検討した結果、約3割の区画を対象に平面化工事を実施しました。

 

<参考記事>

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

平面化の工事では、カニクレーン等の重機でパレットを撤去したうえで、梁と柱を組み立てて、最後に亜鉛メッキを施した鋼製板を敷き込みます。

 

泡消火設備の撤去などを含めて合計1千万円以上の費用が掛かりましたが、現状を維持する場合は設備更新費用を含めて3千万円以上の投資が見込まれるため、それと比べれば十分元は取れると説明したところ、住民説明会や総会では一切反対の声は上がりませんでした。

 

ただ、共用部分の大きな変更に該当するため、本記事でも触れているように、管理規約の「特別決議」の要件をクリアする必要があります。

 

また、駐車場を利用する人と利用しない人との間の利害が合致しない部分もあるため、あくまで管理組合全体としてベネフィットがあることを理解してもらうための努力も欠かせません。

 

そのために、まずは駐車場の利用ニーズの動向や駐車場の外部貸しへの賛否についてアンケートで確認しました。

 

平面化工事を実施することを決定する前には、単に設備をクローズして点検や修繕を行わないほうが安く上がるのではないかという意見も挙がったため、その場合のリスク等についても検証を行いました

 

平面化を実施する場合には、鋼製板の敷込み以外にも、ピットを土砂で埋め戻すという方法もあるため、それぞれの長・短所を比較しながら慎重に検討を進めました。

 

工事を実施する施工業者を決めるにあたっては、複数の業者から相見積もりを取得しながら選定を進めました

 

いよいよ方針が決まってからは、総会決議に先立って、一般の組合員の理解を深めるためにこれまでの検討経過や経済効果を含む説明資料を作成して住民説明会を開催しました

 

<参考記事>

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

以上のような一連の活動について、当社も顧問として手取り足取りでサポートをしましたが、もし理事会や修繕委員会に参加する管理組合の方々が主体となって取り組まなければ、決して日の目を見ることはなかったでしょう。

 

「無関心」を決め込む住人が多いマンションでは、なかなかの難行苦行でしょう。

 

なお、「空き区画解消+収入増」の対策として、カーシェアサービスを導入することについては、以下の理由から現実的にはそう容易ではないと考えています。

 

(1)マンション住民以外の外部の利用を認めないと、組合の収入増は限定的。

(2)マンションに多い機械式駐車場は、設備故障のリスクがあるため業者は消極的。

(3)本サービスの導入によって月極めの解約がかえって増えるリスクが高まる恐れあり。

 

<参考記事>

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

 

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村上 智史

村上 智史

株式会社マンション管理見直し本舗代表取締役・All About マンション管理士ガイド。早稲田大学卒業後、三井不動産に入社。土地オーナーとの共同事業、ビル賃貸事業、Jリート(不動産投資信託)の立ち上げに従事した後2013年3月退職。2013年5月 『あなたの資産を守る!マンション管理見直しの極意』(自由国民社刊)を上梓。無関心な住人の多いマンション管理組合が潜在的に抱えるリスクを解消し、長期にわたって資産価値を維持できるソリューションを提供することで、「豊かなマンションライフ」の実現を目指しています。

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