マンションの大規模修繕工事で外壁タイルの不具合が異常に多かった理由とは?

顧問先のマンション(築16年目)では、今年の2月から第1回目の大規模修繕工事が始まりました。

 

ただ、3月に入って施工業者から外壁の下地補修のため不具合箇所を集計したところ、当初見込んでいた数よりもはるかに不具合の箇所が多いことが判明しました。

 

実は、着工の1年半前にこのマンションでは外壁の全面打診を実施しましたが、その際にすでに約2万枚もの浮きが見つかっていました。

 

そのため、今回の工事では3万枚の貼り替えを見込んでいたのですが、実際には4万枚を有に超えてしまったのです。

 

貼替え用のタイルは、通常1万枚単位で窯焼きによって製作します。

また、納期までに1ヶ月程度の時間がかかります。

 

施工業者からは、貼替え枚数の増加による作業費の増加に工期の延長分を加えると、合計で1千万円以上の費用が増えるとの見積もりが示されました。

 

その後、理事会と施工業者で協議した結果、なるべく費用増を抑えるべく以下の方針で進めることとしました。

1)不足分のタイルについては類似の既製品を購入し、なるべく目立たない場所に貼る。(これによって工期の延長を回避する。)

2)共用廊下と階段の長尺シートの貼り替えについては、現状それほど劣化していないこと、また足場が不要な箇所であることから今回の施工対象から除外する。

 

これによって、全体の費用増を6百万円程度に抑制することができ、臨時総会に議案を上程し無事承認が得られました。

 

それにしても、なぜこれほど多数のタイルが浮いてしまったのか?

 

この背景には、 施主(デベロッパー)による工期の短縮を含む経済合理性の追求志向があり、具体的には以下の2つの工法の採用が原因になったのではないかと推察されます。

 

1)タイル直貼り方式の増加

外壁タイルを貼る際には、下地のコンクリート全面にモルタルを塗るのが一般的です。

さらに、外壁タイルを張る際には、この下地が十分に乾いていることと、「目荒らし」(接着力を強化するために表面をわざと粗く加工する作業)することの2つが必要です。

ただ、下地のモルタルが乾くまでには一定の養生期間が必要になります。

そこへ接着材料の進歩や剥離対策用の工法の開発によって、躯体にタイルを直接貼るための有機系接着剤が普及し、2週間から1ヶ月の工期短縮が可能になり、徐々にコンクリートへの直貼り方式が採用されるようになったのです。

 

2)パネコートの使用

さらに、「塗装合板型枠(パネコート)」という型枠の表面にウレタン塗装がされた型枠材も用いられるようになりました。

これによってコンクリート表面の仕上がりが平滑になり、型枠の脱型もしやすく繰り返し使用することができるなど施工性も経済性も向上しました。

ただ、タイルの下地として考えた場合、表面が平滑になることで、タイルの接着強度が落ちてしまうという問題が出やすくなってしまいました。

そのため、確実な施工を行うには念入りな「目荒らし」が必要になるうえ、型枠剥離剤がコンクリートの表面に残っているとタイルの浮き剥離の原因になるため、しっかりした表面の清掃も不可欠です。

 

つまり、こうした目荒らしや清掃などの下地処理が不十分だったり雑なケースでは、将来タイルの浮きなどの不具合が起きやすくなる、というわけです。

 

ちなみに、冒頭に紹介した顧問先マンションは2006年の竣工です。

 

2005年から2006年にかけて分譲されたマンションは、2003年からのミニバブルで土地が高騰した時期に仕込んだ物件が多く、その後市場が沈静化して販売価格も当初目論んでいた相場よりも下がってしまったことから、分譲価格に仕入れのコストを転嫁できなくなっていたのです。

 

そのため、売主であるデベロッパーからのコスト削減要請が施工業者に向かい、経済効率性追求のための工期短縮の動きが過剰に働いた「しわ寄せ」が、上記のような外壁タイルの下地施工不良などが数多く発生する温床になったのではないでしょうか。

 

なお、マンションの外壁タイルのアフターサービス保証は2年と設定されているのが一般的ですが、引渡し後10年間の瑕疵担保期間を経過していても、調査によって新築時の施工に問題があることが確認された場合は分譲業者等に補修費用を負担してもらえる可能性があります。

 

管理組合の皆さんには、第1回大規模修繕工事を迎えるまでには、外壁タイルの状況を一度専門家にチェックしてもらうことをぜひお勧めします。

 

<参考記事>

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

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yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

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村上 智史

村上 智史

株式会社マンション管理見直し本舗代表取締役・All About マンション管理士ガイド。早稲田大学卒業後、三井不動産に入社。土地オーナーとの共同事業、ビル賃貸事業、Jリート(不動産投資信託)の立ち上げに従事した後2013年3月退職。2013年5月 『あなたの資産を守る!マンション管理見直しの極意』(自由国民社刊)を上梓。無関心な住人の多いマンション管理組合が潜在的に抱えるリスクを解消し、長期にわたって資産価値を維持できるソリューションを提供することで、「豊かなマンションライフ」の実現を目指しています。

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