自治体による分譲マンションの情報開示制度は機能するか?

1月16日付の日経新聞に、「神戸市、マンション認証制度白紙に 積立額など開示案」と題した記事が掲載されていました。

 

www.nikkei.com

本記事の要約は以下の通りです。

 

■ 神戸市は15日に開いたマンション管理支援制度検討会で、管理状況が良好な市内の分譲マンションを優良として認証する制度の創設案を取り下げる方針を明らかにした。

 

■ 代わりに修繕積立金の総額や滞納状況などを任意で公開する情報開示の仕組みを提示した。認証制度がなくても市場の評価材料になるとみており、2020年度中に制度開始をめざす

 

■ 本検討会に提示した案は、管理状況に関する市への「届け出」と、市のホームページで管理の詳細を公開する「情報開示」の2本柱となる。

 

■ 届け出制度は規模を問わず、市内の全分譲マンションを対象に3年に1回、総会の毎年開催や積立金徴収の有無などの届け出を義務付ける方針。自治会との交流や防災訓練実施の有無なども把握したい考えだ。

 

■ 届け出したマンションを対象に、管理状況の詳細を外部からも評価できる情報開示制度を設ける。積立金徴収の有無だけでなく、積立金の総額や借入金の残高、大規模修繕の履歴や今後の計画などの公開を検討する。提出は任意で、毎年の情報更新を想定する。両制度とも管理組合の総会や理事会の議決を条件とする方針だ。

 

■認証制度については「管理組合から一気に書類が提出された場合、市に迅速な処理能力があるのか」といった懸念の声も上がっていた。

 

■ これに対し、市は「情報開示できること自体がインセンティブになる。買う人に評価されれば情報開示を目指すようになる」と説明する。情報開示の仕組みや開示内容を充実させることで認証制度までは不要と判断した。

 

■  マンションの適正管理制度をめぐっては、東京都が管理組合の届け出を受けて「優良」と評価する制度を運用している。ただ、積立金の総額や借入金の残高などの公開まで踏み込むのは全国でも初の試みとなる。

 

■  検討会の出席者は「(マンションの比較で)統一的に出せるのは滞納件数と総額ぐらい。1年後に会計が悪くなるとマンション側が訂正しないケースもあるのではないか」と課題を指摘した。

 

■  識者からは「虚偽の情報で取引され、被害が出たときは論点になる。罰則は現実的でないが、自発的に正しい情報を出すような仕組みが必要だ」との意見が挙がった。

 

■  神戸市長は、情報開示制度について「強制するわけにはいかないが、適切な管理の要素として積立金や滞納の状況などは重要な情報」と話した。

 

神戸市のマンション認証制度の構想とは、

分譲マンションの管理実態を行政が把握したうえで管理状況が芳しくない管理組合には適切な支援を行うとともに、管理状況が良好なマンションには行政が「認証」によってお墨付きを与えることで、市場価値を向上させようというものでした。(下図参照)

 

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本記事では、この構想のうち「優良マンションの認証制度」は見送って単なる「情報開示」に代えることを検討中、ということです。

 

ただ、もし本記事のとおり、3年1回の頻度での管理組合の届け出義務とその情報開示の制度にとどまるなら、この制度の「目玉」がなくなったように思えます。

 

また、管理組合や購入検討者などの関係者にとってのベネフィットもさほど感じられないので、制度としての持続可能性は極めて低いと考えます。

 

そもそも、個人が中古マンションの購入を検討する場合、(仲介業者を介して)下記のような物件情報の開示を求めることが可能です。

・総会議案書

(管理費滞納状況、積立金残高を含む決算の実績および予算収支がわかる)

・管理規約・使用細則

(管理組合の運営ルールの概要がわかる)

・長期修繕計画書

(今後30年の修繕予定と資金収支の計画がわかる)

 

したがって、(タイミングによっては)必ずしも最新ではないマンションのデータを開示されたとしても、特に有難いわけではないのです。

 

そのため、情報を閲覧する側には特にメリットがないうえ、情報開示が義務付けられるとそのための事務手間が増えることになります。

 

行政が関与することを前提とすれば、制度が目指すの本来の目的を踏まえて、

管理や財政状況の悪いマンションをあぶり出しつつ、いかに改善を促すか」ということに注力すべきだと思います。

 

そして、もし私が本検討会の委員だったら、以下のような提案をするでしょう。

 

(1)日管蓮の「マンション管理適正化診断サービス」を活用せよ!

 

本診断では、診断資格を有するマンション管理士が組合資料一式を閲覧しながら理事長との面談を経て診断した結果をレポートを作成するので、管理組合には特に手間や負担もありません。(しかも無料!)

 

レポートを見れば一目瞭然で、マンション管理状況の良し悪し(S・A・Bの3段階)を客観的に判断できますし、行政として把握しておきたい情報は概ね入手することが可能です。

 

yonaoshi-honpo.co.jp

 

(2)診断レポートの開示と指摘事項に関する定点観測を行え!

診断レポートには、診断結果の総評と改善提案のページも用意されています。

 

たとえば、

・理事会や総会が定期的に開催されていない

・3か月以上の管理費滞納がある

・5年以上長期修繕計画が更新されていない

・消防など設備点検の不具合が解消されていない

といった問題の指摘があれば、それらを次回の診断までに解消することを管理組合に要請すればよいわけです。

 

行政としては、管理組合の事前承諾を得たうえで、過去分を含めて診断レポートをアーカイブとして保管しながら、開示すればよいと思います。

 

もちろん、診断結果の優良なマンションはリセール・バリューの維持向上にも資すると考えられるので、管理組合にとって開示するインセンティブにもなるでしょう。

 

逆に言えば、

診断結果の開示に応じないマンションは「推して知るべし」というわけです。

 

<参考記事>

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

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村上 智史

村上 智史

株式会社マンション管理見直し本舗代表取締役・All About マンション管理士ガイド。早稲田大学卒業後、三井不動産に入社。土地オーナーとの共同事業、ビル賃貸事業、Jリート(不動産投資信託)の立ち上げに従事した後2013年3月退職。2013年5月 『あなたの資産を守る!マンション管理見直しの極意』(自由国民社刊)を上梓。無関心な住人の多いマンション管理組合が潜在的に抱えるリスクを解消し、長期にわたって資産価値を維持できるソリューションを提供することで、「豊かなマンションライフ」の実現を目指しています。

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