マンションの屋上防水改修工事に「25年」の長期保証が付帯する理由
2024/12/06
顧問先のマンションでは、管理費等の滞納期間が2年以上に及んでいる区分所有者に対して、弁護士委任のもと、裁判所に訴状を提出し、債権回収に着手することになりました。
元本に加えて、遅延損害金(支払期日経過に伴い発生する利息分)ならびに弁護士費用を含む違約金を含めると、債権額は100万円を超えています。
管理組合としては、初期の段階で話し合いや分割返済の提案などを行ってきましたが、最終的には、滞納者本人とまったく連絡が取れなくない状況のため、法的措置を取るのもやむを得ないとの判断です。
国交省が発表した「マンション総合調査結果」(令和5年度)によると、管理費・修繕積立金を3ヶ月以上滞納している住戸のあるマンションは約3割を占めています。
今はその「兆し」すらなくても、管理費の滞納問題はどこのマンションでも起こりうることであり、決して他人事ではないのです。
この滞納問題について、管理組合の役員さんにぜひ頭に入れておいてもらいたいポイントを以下ご案内します。
(1)滞納債権には「消滅時効」がある!
毎月一定額を支払う管理費や特別修繕費は民法上の「定期給付債権」に当たり、その場合の消滅時効は5年と定められています。
したがって、長期滞納を放置した場合、債務者にこの時効を主張されると管理組合は債権を回収することができなくなります。
そのため、少なくともこの時効が到来しないように債権を管理する必要があります。
たとえば、滞納管理費の一部だけが支払われた場合には、支払期日の古い債権から順に充当させていくべきです。
ちなみに、滞納者に対して支払いを求める内容証明文書等を送付すれば時効を中断できると考えがちですが、催告では時効を6カ月間延長する効果しか得られません。
時効を中断させるには、催告から6カ月以内に裁判上の請求や申し立てなどを行う必要があることを頭に入れておいてください。
(2)滞納債権の範囲は管理費だけではない!
管理費等(修繕積立金、各種専用部使用料を含む)が滞納になった場合、管理組合が認識すべき債権として、管理費等以外に次の費用項目も加算して請求できます。
・遅延損害金
・違約金
「遅延損害金」については、マンションの管理規約に定め(年利14.6%が多い)があるのが一般的なので、それに従います。
ただし、古い規約等で具体的な規定がない場合、民法上の年利5%が適用されるので要注意です!
また、「違約金」については、督促に要した費用(管理会社・弁護士などへの委託料、通信・交通費など)が該当します。
どちらも管理規約の条文に具体的な記載がないと、訴訟で請求しても法的に対抗できないので、古い規約のまま放置されていないかを確認し、必要に応じて改定を検討してください。
(3)明暗を分けるのは、「初期段階の対応」!
管理組合(理事会)が「管理費の徴収業務は管理会社の仕事」と誤解していることが少なくありません。
そのため、管理会社の動きが緩慢な場合には、督促等の対応が後手に回ってしまうことになります。
また、マンション管理会社との管理委託契約では、一般的に滞納初期(※3~6カ月で設定されていることが多い)においては管理会社が電話や面接での督促を行うと定められていますが、それ以降は管理組合の業務として別途追加的な対応を検討しなければなりません。
したがって、日常的な対応として少なくとも毎月1回は月次会計報告書(提出は、管理会社の法的義務にあたる)で滞納の有無や金額等を確認するようにしましょう。
また、3カ月以上の滞納は「イエローカード」と判断し、督促の経過と進捗状況をこまめに管理会社に求めるようにしてください。
滞納が6カ月を超えた段階では、遅延損害金等も加算して請求することを通知するなど、「滞納すると自分が損をする」ことを本人に認識させることも重要です。
逆に、滞納期間が半年を超えた場合、回収問題が深刻化・長期化するリスクが一気に高まります。
(4)安く、カンタンにできる法的措置もある!
上で述べた、5年間の「消滅時効」を中断させるとともに、債権回収のために滞納者の財産を差し押さえるなどの強制執行をするには、「債務名義」(国の強制力によって執行できる請求権の存在・範囲を表示した文書)を取得することが必要です。
この債務名義を得るためには、通常の訴訟以外に比較的簡易な方法が2つあります。
一つは「少額訴訟」、もう一つは「仮執行宣言付き支払い督促」です。
「少額訴訟」は、少額(請求額60万円以下)の場合に、原告の費用負担が小さく、迅速かつ効率的に紛争を解決することを目的とした制度で、簡易裁判所に訴えると1回の期日で審理を終了し、即日判決が言い渡されます。
一方、「仮執行宣言付き支払い督促」は、申立人(債権者=管理組合)の主張のままに、簡易裁判所の書記官が「支払え」と命じる書類を債務者に送付する手続きです。
少額訴訟のような訴額の上限や証拠書類の提出も必要なく、督促後に滞納者から異議が出なければ、債務者が債務の存在を認めたものとして判決に準じる効果を与えるというものです。
ただし、少額訴訟や支払督促に対して滞納者から異議が出された場合には、通常の訴訟手続に移行します。
なお、訴訟提起のためには、原則として理事長が総会の決議により組合の代表として承認されることが必要です。
ただ、これについてはマンションの管理規約で「理事会の承認で足りる」旨を規定することも認められています。
現在の管理規約を確認してそのような定めがない場合には、滞納管理費の回収のために機動的な対応ができるようあらかじめ管理規約を改正しておくとよいでしょう。
(5)法的措置を取っても解決しない場合はどうすればよい?
簡易的な法的措置でも、債権を回収できない場合、滞納者の資産を差し押さえることも検討しなくてはなりませんが、そもそも経済的に困窮していることが滞納の原因である場合は、「別の手」を講じなくてはなりません。
それは対象住戸の「競売」です。
区分所有法(第7条1項)では、債権者である管理組合に「先取特権」(マンションそのものや、マンションに備え付けた動産の売却代金・賃料等から優先的に管理費等を回収できる権利)が認められており、当該住戸を競売にかけて換価された売却代金から滞納管理費等を回収するという方法が認められています。
ただし、この方法も一筋縄ではいきません。
滞納者が抵当権付きの住宅ローン等、より返済が優先される債務を抱えていて、かつ、これら優先債権の方が住戸の売却代金よりも大きい場合は、競売を実施しても意味がないとして競売を取消されてしまいます。(無剰余取消し)
こうなると「打つ手」がないのでしょうか?
まだ、あります。
最後に残されているのは、「区分所有法第59条にもとづく強制競売」です。
この場合、仮に「無剰余状態」でも、競落人から滞納管理費等を回収することが可能です。
競売さえ実現してしまえば、新たな区分所有者が、前区分所有者の滞納管理費債務を承継するため、管理組合は滞納債権を回収できます。(区分所有法第8条)
しかしながら、管理費等を滞納している区分所有者にとっては、「強制的に区分所有権を奪われる」ことになるため、適用要件も厳格です。
このいわゆる「第59条競売」については、下の記事に詳細を紹介していますので、ご参照ください。
yonaoshi-honpo.hatenablog.com顧問先の長期滞納者も、このまま埒が開かない場合は、この方法で進めるしかないと考えています。
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