マンション修繕積立金の増額幅を大幅に圧縮できたワケ
2025/01/06
先日、「どうなるマンション管理士 平成30年度 過去最少の受験者 合格者1,000名割る」という記事を見かけました。
本記事の要約は以下の通りです。
・1月11日、平成30年度マンション管理士試験の結果が発表された。
受験者数:12,389名 (前年比5.0%減)
合格者数: 975名 (同16.5%減)
合格率 : 7.9% (前年は9.0%)
・合格者数がついに1,000名を割った結果にいささか驚いた。資格制度が始まった平成13年当時、試験範囲が広く、マンション管理組合の意見調整役としての知見が必要とされたため、「宅地建物取引士」より難易度は高く〝格上〟と目されていた。
・資格を取得すれば、マンション管理組合アドバイザーなどとして独立できるのではないかと期待もされ、第1回の試験には約9.7万人も受験していた。
・ところが、受験者数はこの年が最多で、その後漸減を続けている。平成30年度は過去最少となり、合格者数も1,000名をついに下回った。人気がなくなってきたのは、資格を取得しても独立し、正業とすることが難しいためと思われる。
・昨年6月、マンション管理士を対象に実施した同センターのアンケート調査結果が課題・問題点をあぶり出している。それによると、資格を取得した理由は、「現在又は将来の仕事に生かすため」がもっとも多く65.8%を占めていた。
・「現在又は将来の仕事に生かすため」であることから、取得者は「管理業務主任者」や「宅建士」の資格を持っている人が7~8割台に達している。
・問題は、マンション管理士としての現在の活動状況だ。「本業として活動している」は5.4%で、「副業として活動している」は7.7%、「活動を行ったことがない」は実に75.8%に達している。
・本業として活動している人の1年間の売上高は、「100万円以上、400万円未満」が最多で30.4%、「100万円未満」と「収入を得たことはない」を合わせると47.9%に上る。個人事務所として活動している人で年間の売上高が700万円以上は5.6%にしか過ぎない。
・資格制度に対する意見では、国・地方自治体など公的機関の財政的な支援を求める声や、宅建士と同じように業務独占資格に改めるべきとの意見があった。
合格率が一桁台の国家試験というのは、
一級建築士、行政書士、社会保険労務士など他の有名資格と比肩するほどの難易度です。
しかしながら、
依然として「マンション管理士」資格に対する認知度は非常に低いと言わざるを得ません。
認知度が低い理由は、一言で言えば、
社会的に活躍している人勢が極めて少ないからです。
本記事で紹介されている有資格者の収入実態が、如実にそれを裏付けています。
確かにマンション管理士は、弁護士や公認会計士のような「業務独占資格」ではありません。
さらに、顧客であるマンション管理組合についても、大半は無関心層で占められていることも影響していることは間違いないでしょう。
しかし、それらが決定的な理由ではないと思います。
私が考えるに、
「市場」で求められているスキルや人材像と、有資格者のそれがマッチしていない
からだと思います。
当然ながら、
マンション管理士として求められているのは、区分所有法や管理規約、建築基準法といった法律的な知識だけではありません。
これらに加えて、以下のような「能力」が求められていると思います。
(1) 対人関係構築力
第一に大切なことは、顧客である管理組合の依頼や要望の本質を掴むことです。それには、日頃からいかに 良好な信頼関係を構築できているかにかかっています。
そのためにマンション管理士として求められるのは、以下の2つの要素だと思います。
・専門的な情報や知識をわかりやすく伝えることのできるコミュニケーション力
・自分とは異なる意見を持つ顧客を受け入れられる寛容さ
(2) 問題解決力
マンション管理士は、管理組合から受けた依頼や要望に対して、専門家の視点から客観的かつ合理的に解決策を提示できなければなりません。
そのために必要なのは、これまでの学習や実務経験等で得た知識やノウハウを総動員して論点を整理したうえで、保守的な傾向が強い管理組合にとって現実的でリスクの少ない選択肢を示すことです。
(3) ファシリテーション力
マンション管理組合に共通する最大の特徴の一つは、管理に無関心な層が多いということです。そのため、事実上、理事会など一部の住人の意向で物事が決まってしまうケースもあります。
あるいは、理事会の運営において、活発な意見交換や健全な議論が行われず、役員同士の感情的な対立にまで発展してしまうこともあります。
マンション管理士としては、なるべく多くの住人が管理組合の運営に対して理解を示し納得感が持てるよう、日頃から管理組合内部の意見を広く受け入れて調整し、合意形成と相互理解を導く役割が期待されるのです。
そのうえで、
仕事を遂行するために以下のような「スキル」面を磨くことも必要です。
(1)実務経験に裏打ちされた実践的知識
マンション管理士として関与すべき業務は、その主なものだけでも、下記のように多岐にわたっています。
・理事会や総会の運営
・事業計画や予算の策定
・管理規約の見直しや改定
・管理コストの削減、管理仕様の見直し
・管理会社に対する業務の監視と指導
・住人間のトラブル対応
・長期修繕計画の作成・更新
・大規模修繕工事の実施
一方、マンションも、その規模や設備の仕様、住人の特性などによって実に様々で、2つとして同じものはないと言ってよいでしょう。
これまでのキャリアでまったく管理組合の運営に携わった経験がない場合には、まず管理組合の現場での実務経験を積むことが不可欠だと思います。
(2)幅広い人脈とネットワーク
マンション管理の対象はとても広範囲にわたるため、マンション管理士がすべての分野を専門家としてカバーすることは不可能です。
たとえば、建築や設備の修繕、損害保険などといった、自らの専門外の分野については、日頃から信頼して相談できる人脈や関係先を積極的に構築しておくことが有効です。
(3)情報発信力
士業の専門家に見られる特徴のひとつとして、待ちの姿勢で顧客に接するという傾向があります。
管理組合では無関心層が多数派を占める中、そのような受け身の姿勢で対応を続けていては、マンション管理士としての存在意義は小さくなる一方です。
管理組合にとって有益と思われる情報を常にアップデートし、これらをタイムリーに提供できるようになれば、管理組合にとって重宝される存在になれると思います。
ところが、国家試験の方は、
一定の難易度を保つことを前提に「多くの受験者を落とすための試験」と化しています。
管理組合の現場で求められる能力や知識とは乖離した、
「重箱の隅をつつく」ような知識を問う出題が数多くなされています。
そして、せっかく膨大な時間を受験勉強に費やして難関な試験に合格しても、大切な現場での実務経験を積むようなサポートは一切なされていないのが実情です。
マンション管理組合という、かなり特殊な「顧客」と「市場」の実態を十分吟味しながら、「求められるマンション管理士」のイメージ像を再構築したうえで、現在の選抜的要素の強い試験のあり方を見直すとともに、公的な実務研修制度などの導入を検討することを提案します。
<参考記事>
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