5月28日付けの日本経済新聞に、『修繕積立金「値上げしました」 女性理事長ハラハラ奮闘記』と題した記事に掲載されていました。
<参考記事>
本記事の要約は以下の通りです。
◾️ 大規模修繕などに必要な「修繕積立金」の不足に悩むマンションの割合は34.8%に上る。
◾️ 投資用に東京23区内にある中古ワンルームマンションを購入した女性理事長は、総会での2回の否決を乗り越え、4年がかりで修繕積立金と管理費のセット値上げにこぎ着けた。
◾️ 2020年夏、臨時総会の議案書で「現行の修繕積立金を『平米単価100円アップ』に改定する」議案が上程されていた。
◾️ 総会当日の出席者は2人だけ。管理会社によると、1回目の大規模修繕工事の費用が大幅に不足しており、金融機関からの借り入れが必要な状況にあるという。
◾️ 修繕積立金が不足する事態が起きた要因の一つが当初の修繕積立金が低く抑えられた「段階増額積立方式」と呼ばれる徴収方法にある。
◾️ 当初の設定金額が低い分、将来的には積立残高が不足する可能性が高まり、管理組合は段階的な値上げの実施を求められる。
◾️ 管理会社は3社から大規模修繕工事の見積もりを取得したが、最安値でも積立金残高の2倍の費用がかかる試算だった。足りない分は管理組合が金融機関から借り入れたうえ、大幅な修繕積立金の値上げが必要だった。
◾️ 20年夏の臨時総会で、▽大規模修繕工事の実施▽不足資金の借り入れ▽工事内容の理事会一任――の3点が決議されると、「このまま他人任せにはできない」と意を決して理事長に立候補した。
◾️ 理事長となって最初に取り組んだのが大規模修繕工事費の削減だ。3社とは別の業者に見積もりを依頼し、工事費を数百万円削減できた。
◾️ 次に取りかかったのが、修繕積立金の値上げ幅の検討だ。管理会社からは均等積立方式への移行を提案されたが、それには修繕積立金を倍増が必要な計算だった。
◾️ ただ、区分所有者の立場から考えると、いきなりの倍増は無理だろうと判断し、段階増額積立方式のまま、次の大規模修繕工事の費用を抑えることで平米単価の値上げ幅を100円から50円に引き下げ、年間の増額幅を15,000円に抑える提案をすることにした。
◾️ 同時に、新築時から一度も値上げしておらず散発的に赤字になっていた管理費も平米単価で約50円引き上げ、修繕積立金と合わせた値上げ額が年額3万円となる議案をまとめ、21年の通常総会に臨んだが、結果は否決。翌年の通常総会でも同じ提案をしたが、結果が覆ることはなかった。
◾️ 悩んだあげく、組合総会開催の案内のページに、以下の内容で直筆の文章を掲載し、厳しい財政事情と値上げの必要性を訴えた。「現在、借入金の返済をしながら修繕費を積み立てていく管理組合の現状は大変厳しい会計事情です。今後もメンテナンスは必要となります。毎月の費用負担の増額をお願いする次第です。」
◾️ それが功を奏したのか、23年夏の臨時総会でこの管理組合はようやく修繕積立金と管理費の値上げを決議した。◾️ ただし、修繕積立金は今後3回の段階的な値上げが必要で、2回目は2年後に迫る。資材費や人件費の高騰が続けば、さらなる値上げが必要になる可能性も残る。
◾️ 理事長として勤務後に管理組合の書類を読んだり、管理会社と協議したり、理事会メンバーとメールでやりとりしたりするなど様々な業務に奔走した。
◾️ 管理会社から毎月届く業務報告書のチェックのほか、故障した玄関ドアの修理など理事長には緊急時の対応も多い。◾️ だが多くの場合、管理組合の理事は無報酬。理事のなり手不足に直面する中、管理規約を改定するなどして理事の役員報酬を設けることも検討課題になりそうだ。
◾️ マンション所有者や購入希望者へのアドバイスとして、「修繕積立金の徴収方法や残高をまず確認してほしい。修繕積立金が不足していれば値上げの議論は急務。人ごとにせず、建物の安全を確保し資産価値を維持する組合の活動に参加してほしい」と助言する。
東京カンテイが公表している「首都圏新築マンションの管理費と修繕積立金の推移」に関する下のグラフをご覧ください。
これによると、修繕積立金の㎡あたりの月額単価は、2022年時点でも@113円にすぎません。
修繕積立金の相場は、2013年時点の平均額@97円から16%しか増えていません。
(ちなみに、同じ期間で管理費は約25%も増加)
一方、国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を見てみましょう。
このガイドラインの目的は、「新築マンションの購入予定者に加え、既存のマンションの区分所有者や購入予定者においても、修繕積立金に関する基本的な知識 や修繕積立金の額の目安について参照できるようにするため」と記載されています。
下の表を見れば明らかですが、本ガイドラインによると、マンションの階数や延床面積にかかわらず修繕積立金の㎡あたりの月額単価は少なくとも@250円以上は必要(均等積立方式を想定した場合)とされています。(機械式駐車場がある場合は、別途加算が必要)
つまり、新築時点の修繕積立金が本来必要な水準の半分以下で設定されているために、10年後あるいは20年後に資金不足に悩まされるマンションが多いのです。
なぜそのようなことになっているのか?
これはマンションの売主であるデベロッパーの販売戦略の問題です。
昨今、分譲価格が高騰していますが、マンション購入者が意思決定する際の関心事の一つがローン返済能力の確認です。
ローン返済のほかに、毎月の管理費、修繕積立金、駐車場等の専用使用料といったランニングコストが可処分所得に占める割合をチェックしながら検討するはずです。
その時に、修繕積立金が仮に毎月1万円増えた場合、ローンの返済力にも影響が出るのは間違いないでしょう。
結局それは、マンションの販売価格の下方修正をもたらしかねません。
デベロッパーにとっては、売上だけでなく期待できる利益が下がることになるので、均等積立方式を採用せずに、段階増額方式で長期修繕計画を管理組合に提示するわけです。
今後は資金計画を見直しながら、段階的に増額するかどうかは管理組合自身で検討してくれ、ということです。
ガイドラインの半分以下で設定しておきながら、ずいぶん無責任な話です。
購入者は、こうした業界の「からくり」についてそもそも無知だったり、他のマンションも似たり寄ったりの状況のため、リスクに気づくのはごく一部の人だけです。
残念に思うのは、こうした問題を知りがなら大手マス媒体の記事は、必ず管理組合や購入者への注意喚起で終わってしまっていて、不動産業界への批判にまで及ばないことです。
<参考記事>
村上 智史
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