マンション管理会社のリプレイスは「品質低下」を招きやすい?

「マンションの管理会社変更、「成功報酬型」に潜む落とし穴 」という記事が19日付けでウェブサイトに掲載されていました。

 

news.goo.ne.jp 本記事の要約は以下の通りです。

・・・・

■マンション管理組合では、管理会社への日頃の疑問や不満の声が噴出することがあり、それによって管理会社のリプレイス(交替)を検討するケースがしばしば見受けられる。

 

■管理組合のリプレイスを薦めるのは、たいていの場合、「年間削減管理費の50%」などの成功報酬型のコンサル会社である。この種のコンサル会社は、管理費を削減すればするほど儲かるため、とことん削減に走りがちだ。

 

■中でも多いのは、売主系列の管理会社からローコストが売りの独立系管理会社に変更するパターン。しかし、管理費が下がったものの、後になって管理のレベルが著しく下がることケースがある。

 

■例えば清掃時間を削減しすぎたあまり、かつてのようには清掃が行き届かない、共用部の電気交換をやってくれなくなった、ゴミの整理が以前より雑になった、管理組合広報などの投函をしてくれなくなったなどである。

 

■さらにまずいのは、こうした不満を管理会社に伝えると、1年更新の管理契約を管理会社の側から更新拒絶されるケース。

 

■管理費の削減成果に応じた報酬制によるコンサル会社の提案は、一見魅力的に思える。ところが、大幅な削減ができるパターンというのはたいていの場合、売主系列の管理会社から、劇安を売りにする管理会社への変更を伴う。

 

■しかし副作用の大きさを考えると、管理会社のリプレイスには相当慎重になったほうがいい。また、そもそも管理会社を変えるといったリスクを冒さなくても、管理費削減は可能だ。

 

■リプレイスを声高に吹聴するコンサルタントの提案を冷静に分析・検証しよう。管理会社を変更するデメリットを説明しないで、リプレイスを行うことのメリットだけを強調する場合は特に要注意だ。

 

■成功報酬型のコンサルティングは勢い、管理組合のためではなく、自分のコミッションにつながる「削減額の最大化」に向けた仕事をしがちで、それまで住民が享受してきた様々なメリットを見逃しがちになる。

 

■まずは、住民が管理会社に対してどのように考えているのか、アンケート等で広く意見を聴取してみよう。理事会としては、管理会社は変更せざるを得ないと思っていたとしても、住民の管理会社への評価は、往々にして異なる場合があるためだ。

 

■そのうえで、まずは現行の管理会社と管理の中身やコストについて交渉の場を持つべきだろう。フロントマンに不満がある場合には管理会社に改善ないしは交替を求め、それでもなお改善されない場合に、管理会社の変更に取り組もう。

 

■一般的にはどの程度の管理費が適正なのか、理事会として物差しを持っておきたいもの。形態別では、単棟型が1万5970円、団地型が1万3134円。もちろんこれらはあくまで目安であり、具体的にどのようなサービスが行われるかによって異なる。

 

■こうしたプロセスを経たうえで、現在行われている管理の内訳やサービスの内訳を洗い出しリスト化、必要なサービスを委託契約に書き込んでいき、管理会社変更前と変更後で、具体的に何が変わるのか、住民にもわかるようによく説明したうえで管理会社変更に踏み切ろう。

・・・・

 

本記事で槍玉に上がっている成功報酬型のコンサルメニューも用意している当社にとっては、こうした記事がそのまま世の中に流布される影響を考えると捨て置けず、反論しておきたい項目を以下の通りまとめてみました。

 

<1> 成功報酬型コンサル ≒ リプレイス提案 ではない!

本記事では、成功報酬型コンサル=管理費削減(※正確には「管理委託費」と定記載すべきです)効果の最大化に執心 ⇒ ローコスト型独立系管理会社へのリプレイス提案 ⇒ 管理品質低下 というリスクが強調されており、記事タイトルのように「成功報酬型コンサルに落とし穴がある」というミスリードした印象につながってしまっています。

 

まず、成功報酬型コンサルとリプレイスがまるでセットメニューであるかのように位置づけられるのはまったくいい迷惑で、強く否定しておきます。

 

当社の場合、理事会等で業務内容を説明する際には、管理会社の変更ありきではなく、管理会社とのコスト交渉を代行することを謳っています。

 

<2> 管理委託費の削減手段 ≒ 管理仕様の低下 ではない!

本記事の中で最も気になったのは、「コスト削減効果には、予期しない管理品質の低下が生じるリスクがある」という主旨のくだりです。

 

そもそも、管理委託契約書には、管理会社の業務内容ならびに管理仕様の詳細が記載されています。

 

管理仕様とは、たとえば「管理人が週5日・4時間/日勤務する」、「清掃は年6回実施する」、「エレベーターは年4回の有人点検を行う」といった内容です。

 

管理委託費を削減したいなら、上記の仕様を落とせば簡単に実現できます。たとえば上記の例で管理人を「週3日」勤務に変更すれば、コストも当然下がります。

 

しかし、そういった仕様は原則変えずにコスト適正化(削減)を進めるのが常識です。

 

仕様を変えなくても、価格(1回の作業当たりの金額)が割高な部分を適正化するだけで2割~3割程度コストは下がりますから、その必要性ないのです。

 

ただ、数多くのコンサルティングを手掛けていると管理仕様に「過剰」な部分が見られるマンションも決して少なくありません。

 

<例>

■ 30戸の小規模マンションに、管理人が「朝8時から15時まで」勤務している

■ ポリッシャーによる廊下などの床洗浄作業を全館「毎月」実施している

 

したがって、当社では、管理委託費の適正化コンサルを行う場合には、「現行仕様案」と「仕様変更案」の2つを管理組合に提案することが多いです。

 

それと、「清掃が以前よりも雑になった」など、契約条文では詰め切れない部分については、たしかに品質低下のリスクはあるかもしれません。

 

ただ、それが「コスト削減」や「管理会社のリプレイス」自体が直接の原因だと即決めつけられるわけではありません。

 

管理会社が変更になれば、自ずと管理人や清掃員も交代となるのが一般的です。

現場に従事するスタッフの属人的な要素(モチベーションやパーソナリティ)によって管理品質が影響を受ける可能性も十分ありえます。(逆に従来よりも改善されるケースもありえるということです。)

 

もっといえば、そうした不満が生じたなら、管理組合自身が管理会社に対してそれを的確に伝えて改善を図るべきではないでしょうか。

 

それによって管理会社から「契約更新を拒否される」事例があるとのことですが、あったとしても極めて悪質でレアなケースだと思います。

 

<3> 管理費 = 管理委託費 ではない!

本記事でもう一つ気になった点は、あたかも「管理費=管理委託費」だと誤解されそうなくだりです。

 

管理費の水準について、本記事では、「単棟型が1万5970円、団地型が1万3134円」というデータが紹介されていますが、これだけでは果たして管理委託費に削減余地があるかプロのコンサルタントでも判断するのは困難です。

 

なぜなら、管理費とは管理組合が区分所有者から徴収する収益の一部であり、このほかに駐車場などの専用使用料も組合収入に加算されるのが一般的だからです。

 

一方、削減対象となる「管理委託費」とは、管理費と駐車場等の使用料を合算した収入全体から支払われる費目です。

 

したがって、仮に管理費が「安い」としても、他の駐車場収入等が占める割合が大きいケースも少なからずあり、それだけで管理委託費も「安い」という判断はできないのです。

 

また、清掃費や消防設備等の点検費がはたして「適正」かどうかは、管理組合サイドでは判断がつきかねるのが実情です。

 

なお、本記事の締めくくりには、「住民が管理会社に対してどのように考えているのか、アンケート等で広く意見を聴取」、「現在行われている管理の内訳やサービスの内訳の洗い出し・リスト化」、「必要なサービスを委託契約に書き込み、具体的に何が変わるのか住民にもわかるようによく説明」などのアドバイスが述べられています。

 

しかし、こうした一連の作業を専門知識や他のマンションの情報もない、ボランティアの組合役員に求めるのは現実的とは思えません。

 

数多くのマンションを手掛け、専門知識と確かな情報を持つコンサルタントのサポートが不可欠だと思います。

 

<参考記事>

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 


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村上 智史

村上 智史

株式会社マンション管理見直し本舗代表取締役・All About マンション管理士ガイド。早稲田大学卒業後、三井不動産に入社。土地オーナーとの共同事業、ビル賃貸事業、Jリート(不動産投資信託)の立ち上げに従事した後2013年3月退職。2013年5月 『あなたの資産を守る!マンション管理見直しの極意』(自由国民社刊)を上梓。無関心な住人の多いマンション管理組合が潜在的に抱えるリスクを解消し、長期にわたって資産価値を維持できるソリューションを提供することで、「豊かなマンションライフ」の実現を目指しています。

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