マンション管理組合の「オンライン総会」は実現するのか?

(一社)マンション管理業協会が、今般のコロナ禍及び今後のIT利活用の拡大を視野に、本年9月「ITを活用した総会の在り方検討会」を立ち上げ、法的・実務的論点を整理し、それに対する考え方をとりまとめた報告書を、12月1日にリリースしました。

 

www.kanrikyo.or.jp

その要約は以下の通りです。

■  AIやIoTといった先進技術の発達を通じた社会構造の変化により、マンションを取り巻く環境は大きく変化しつつある。また、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から「新しい生活様式」への適応を求められる中、管理組合運営においても、大きな変革が求められている。

 

■  特に、理事会や総会については、感染リスクに鑑みて、「3密」を回避又は緩和して開催できる方法を構築する必要があり、 物理的な場所の制約を受けず、どこに居ても参加可能な「新しい総会のスタイル」が望まれている。

 

■  その実現に向けてITの利活用は必要不可欠であり、その他、利便性の向上、出席機会の拡大、 更には、会場費や当日の設営など、コスト削減並びに管理組合の負担軽減にも期待でき、今後の有用な会議体の選択肢の一つになり得る。

 

■  管理組合のIT化の第一歩として、総会や理事会にITを活用する際、適正実施が図られるよう、現行法では必ずしも明らかではない「ITを活用した総会の在り方」について、法的・実務的論点の明確化を目的として、9月に「検討会」を立ち上げ議論を重ねてきた。

 

■  管理組合が総会の在り方を検討するときの追加的な選択を提供することを目的とし、管理組合が主体となって適正実施が図られるよう、問題となり得る法的・実務的な論点を明確にし、それに対する考え方をガイドラインにて示すと共に「区分所有法」並びに標準管理規約等における解釈の明確化の必要性について提言した。

 

■  総会へのIT活用の第一歩として、「リアルとオンライン併用型」における実証実験を行った。その結果、留意すべき点はあるものの、現行の区分所有法において、WEB 会議システム等を用いて集会(リアル+オンライン併用型総会、オンライン総会)を 開催することは否定されるものではない。特に「併用型」については、物理的な参集場所を設けることから、会場への出席を希望する者のニーズも満たされる。

 

■ ただ、留意すべき点として、第三者による区分所有者なりすまし行為や通信障害が発生するリスクが考えられるため、予防対策や障害発生時の対応等について事前に協議しておくことが望ましい。

 

■ ITを活用した総会開催方法の類型としては、以下の3つのタイプが考えられる。

1)リアル総会+オンライン傍聴参加
リアル総会を開催するが、出席者以外にもオンラインでの傍聴を認める。

 

2)リアル+ オンライン併用型総会
リアル総会を開催する一方、会場に来ない区分所有者等についても、WEB会議システムによるリモート出席を認めるとともに、議決権行使・質疑等も許容する。

 

3)オンライン総会
リアル総会を開催せず、区分所有者等がすべて WEB会議システム等を用いて総会に出席する形態。

 

■ オンライン総会およびリアル・オンライン併用型総会の開催に関する今後の課題については、以下の点について区分所有法ならびに標準管理規約等における法解釈の明確化が必要。
①オンライン出席者の議決権行使の取扱いについて
②オンライン出席の管理者等による、毎年1回の「事務報告」の取扱いについて
③オンライン形式で開催する際の招集手続き(通知事項等)について

 

本要約の最後にも記載の通り、オンライン総会の開催を法的に容認するには、

・オンラインでの参加が困難な区分所有者への配慮

・「第三者によるなりすまし行為」のリスクへの対応

・通信障害などが生じた際の対応方法

などについて区分所有法や標準管理規約において具体的な規定が必要ということです。

 

現行法では、年1回開催する定期(通常)総会については、前年度の会計報告を集会で行うことが区分所有法で義務付けられています。

 

そのため、委任状や議決権行使の提出による意思表示も可能としながらも、現行法では物理的な集会による開催が必要とされています。

 

ただし、理事会の開催方法については、(そもそも理事会の設置は法的な義務でもなく、組合の裁量によるため)区分所有法上の定めはありません。

 

そのため、管理規約に規定すれば、Web会議システム等による参加や議決権行使の方法を選択できることが、国交省の「標準管理規約」のコメント欄にも記載されています。

 

それを踏まえて、すでに「Zoom」の活用によるオンライン理事会を開催した経験を有する顧問先マンションでは、以下のような条文を追記する管理規約の改正案を総会に上程することを推奨しています。

 

<追加条文例>

(理事会開催に関する「招集」の部分)

理事会を有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響又は映像を送り、伝え、又は受ける方式で適時的確な意見表明が互いにできる方法(以下、「Web会議システム等」という。)により開催する場合は、招集権者が決定して通知するものとする。」

 

 

さて、総会のオンライン開催に関する私の考えですが、議決権行使や委任状の提出を通じた事前の意思表示や、質問・意見書などの事前提出も(組合の裁量によるが)可能であることや、もともと議場参加率が平均3割程度(マンション総合調査結果による)にとどまっている状況等を考えると、「3密」回避のための「必須条件」とまでは言えないだろうと思います。

 

ただ、新型コロナウィルス感染対策を別としても、オンライン開催等の対応を考えた方が望ましいケースも確かにあります。

 

たとえば、投資用マンションの場合には、そこに居住しないばかりか、むしろ遠隔地に居住する区分所有者も少なからずいて、総会会場に足を運びたくても困難な事情を抱えるケースもあります。

 

私がマンション管理士として管理者を務めている都内のマンションでは、大半が関西地方や九州地方に在住する区分所有者で占められています。

 

年1回の通常総会でも、辛うじて過半数からの意思表示が届く程度の状況でした。

おそらく総会議案書が送られてきても開封して読んでいない人が少ないからだろうと想像します。

 

そのため、このマンションで管理会社をリプレイスするための臨時総会を開催する際には、区分所有者名簿をもとに直接本人に電話で連絡を取って経緯を説明するとともに、書面の提出を要請した結果、回収率を上げることができ、開催要件をクリアしました。

 

また、実際にご本人と話してみると、予想通り議案書に目を通していない方もいましたが、中には「議案書の送付先住所には現在住んでいないため、総会の開催自体を知らなかった」という方も複数いたのです。

 

そのような方には、メールアドレス宛に議案書をPDFで送付し、その後メールで議決権行使書等を提出いただきました。

 

こうした経験から、ゆくゆくはオンライン総会の開催実現を目指すこととしても、当面は「議案書や委任状等の郵送」ならびに「集会型の開催」といったオフライン一辺倒のやり方を見直して、電磁的方法による議案書の送付や、遠隔地居住者の利便性に資するオンライン傍聴などを可能にするよう急ぐ方が区分所有者のベネフィットに資するのではないかと思います。

 

<参考記事>

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

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村上 智史

村上 智史

株式会社マンション管理見直し本舗代表取締役・All About マンション管理士ガイド。早稲田大学卒業後、三井不動産に入社。土地オーナーとの共同事業、ビル賃貸事業、Jリート(不動産投資信託)の立ち上げに従事した後2013年3月退職。2013年5月 『あなたの資産を守る!マンション管理見直しの極意』(自由国民社刊)を上梓。無関心な住人の多いマンション管理組合が潜在的に抱えるリスクを解消し、長期にわたって資産価値を維持できるソリューションを提供することで、「豊かなマンションライフ」の実現を目指しています。

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