マンション修繕積立金の大幅増額を避けるには「管理コストの適正化」が一丁目一番地
2026/07/05

2026年6月12日付けの朝日新聞で
マンションの大規模修繕工事を巡る大規模な談合事件の記事が掲載されました。
報道によると、公正取引委員会は設計コンサルタントと工事会社あわせて38社に対し、独占禁止法違反(不当な取引制限)を認定し、排除措置命令を出す方針を固めたとされています。
大規模修繕工事は、マンション管理組合にとって数年から十数年に一度の大きなイベントです。
工事金額は数千万円から数億円に及ぶことも珍しくありません。
本来管理組合の「味方」であるはずの設計コンサルタントが
談合に関与していたなら、極めて深刻な問題です。
ただし、今回の事件を単なる「悪徳業者による不祥事」として片付けてしまうと、
問題の本質を見失いかねません。
むしろ管理組合が考えるべきことは、
「なぜこのような問題が起きるのか」
「自分たちのマンションではどう防ぐべきか」
ではないでしょうか。
大規模修繕工事には、
(1)施工範囲や施工業者を決定し、着工するまでの「設計段階」と
(2)着工から竣工検査までの「施工段階」
の2つのステップがあります。
前者は、工事対象箇所の数量を積算するとともに、施工箇所の仕様(使用部材の選定、施工方法)を決定することです。
一方、後者の施工とは、上記設計業務で作成されたプラン通りに工事を行うことです。
大規模修繕工事のスキームとしては、
大きく「責任施工方式」と「設計・監理方式」の2種類があります。
◾️ 責任施工方式
工事前の「設計」、「施工」、「工事監理」の3つをパッケージで
施工業者に委託する方式です。
最初から最後まで一社にトータルマネジメントしてもらうので契約がシンプルに一本化されるという利点があります。
◾️ 設計・監理方式
「設計監理業務」と「施工業務」を分離のうえ、それぞれ外部に委託する方式です。
監理業務とは、設計したプランに沿って工事業者が施工しているかを(発注主の管理組合に代わって)定期的に現場でチェックを行い、必要に応じて助言指導を行うことです。
こうした費用は、責任施工方式では発生しません。
ただ、責任施工方式を選択した場合、全工程を一貫して同じ業者に委任するため、
・設計上行うべき施工を故意に行わなかったり、
・予定していた部材より品質の低いものを採用する
といった「お手盛り」の工事になるリスクが潜んでいます。
こうしたリスクに備えるには、
施工業者に対する第三者によるチェック機能を担保する必要があります。
特に管理組合の場合はそのほとんどが工事について「素人」であるため、
設計監理方式を選択する方がリスクは低いと考えられます。
ところが、その設計コンサルタントが
施工会社から何らかの利益供与を受けているとしたらどうでしょうか。
本来は管理組合の利益を守るべき立場の人間が、
施工会社の利益を優先させことになります。
設計監理スキームのメリットは、「水の泡」となってしまいます。
今回の報道を見て、
「なぜ管理組合は見抜けなかったのか」
と思われる方もいるかもしれません。
しかし、現実はそう容易ではありません。
なぜなら、多くの管理組合では
適正に手続きを踏んでいるように見えるからです。
例えば、
・複数の施工業者から見積を取得する
・施工業者のプレゼンテーションを実施する
・理事会で見積条件を比較検討する
・修繕委員会ならびに理事会で発注先を内定する
・総会で正式に承認する
といったプロセスが行われます。
一見すると、透明性の高い手続きと言えます。
しかし、もし見積もりに参加した当事者間で
事前に受注調整を行っていたとしたらどうでしょうか。
施工業者間で競争しているように見えても、
実際には競争していないことになります。
「一番安い会社を選んだ」つもりでも、
実は最初から受注する会社が決まっていたこともあり得るのです。
今回、公取委の調査対象となったのは特定の企業です。
しかし今回の事件で学ぶべき教訓は、
「あの会社は危ないから注意しろ、あるいは発注するな」
という話ではありません。
何が彼らの談合行為を可能にしたのかを振り返って
検証する必要があります。
マンション管理組合には次のような特徴があります。
第一に、理事・役員のほとんどが専門知識に乏しい。
第二に、役員任期は通常1~2年程度の輪番による交代制。
第三に、多額の工事発注を経験したことがない。
一方、設計コンサルタントや施工会社は日常的に工事案件を扱っています。
つまり、管理組合と施工側との間には
情報量も経験値も圧倒的に差があるのです。
その結果、
「専門家がそう言うなら」という理由で判断を委ねてしまいがちです。
ここに管理組合特有のガバナンス上の弱点があります。
ここで誤解してはいけないことがあります。
それは、
「設計・監理方式」というスキーム自体が悪いわけではない
ということです。
実際には、誠実で優秀な設計コンサルタントも数多く存在します。
また、専門家のサポートがなければ適切な工事を実施することも困難です。
問題なのは、実質的な権限を外部に集中させてしまうことです。
設計・監理方式では、
・建物劣化診断
・修繕設計(概算工事費の積算、工事仕様書の作成)
・施工業者候補の提示
・見積要項書の作成
・相見積もりの取得サポート
・施工会社の見積条件の評価比較
・施工会社のヒアリング会開催サポート
・工事請負契約締結のサポート
・工事の監理
・竣工検査のサポート
までを設計コンサルタントが事実上差配しているケースが少なくありません。
これらは、本来「発注者」である管理組合の業務ですが、
専門知識や情報のない理事や修繕委員が全て対応するのは至難の業です。
どうしても設計コンサルタントに「すべてお任せ」になりがちです。
しかし、それが今回のような利益相反行為の温床になってしまうです。
そこで私が管理組合に提案しているのが、
管理組合主導のもとでの「設計・監理の分離プラン」です。
まず、前半の修繕設計については、
設計事務所や管理会社などの専門家に委託します。
建物調査や劣化診断、工事仕様書や数量積算書の作成には高度な専門知識が必要だからです。
しかし、その後の施工業者決定までのプロセスは管理組合主導で進めます。
候補業者の選定や相見積の取得に管理組合自身が関与することで、
利益相反行為を防ぐ仕組みにするためです。
そして着工後の工事監理業務は、管理組合では対応が難しいため
設計事務所を起用します。
つまり、
・修繕設計
・施工業者の選定
・工事監理
の各機能を分離することでリスクマネジメントを強化するのです。
<参考記事>
これから大規模修繕工事を予定している管理組合は、以下の点を確認してみてください。
(1)「 責任施工方式」か「設計監理方式」のどちらか?
(2) 建物劣化診断を実施しているか?
(3)設計会社や施工業者の選定プロセス・方法は組合内で開示されているか?
もしこれらの点が曖昧であれば、一度立ち止まって検証する価値があります。
今回の公取委による摘発は、
多くの管理組合にとって衝撃的なニュースだったと思います。
しかし、この記事のメッセージは、
「設計コンサルタントを信用するな」ということではありません。
大切なのは、管理業務とまったく同じですが、
管理組合が発注者としての主体性を失わないことです。
専門家はあくまでサポート役で、主役は管理組合です。
大規模修繕工事において、工事内容を決めるのも、施工会社を選ぶのも、
最終的な責任を負うのも管理組合です。
今回の事件は、
組合がその権限を手放したときに何が起き得るのか
を示した警鐘と言えるでしょう。
だからこそ今後は、
「専門家を活用しながらも、丸投げはしない」
という姿勢がこれまで以上に求められるのではないでしょうか。
<参考記事>
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