
本年4月に施行された改正区分所有法では、マンション管理を円滑化するための制度が創設されました。
7月16日付けの日本経済新聞に、その一つである「国内管理人制度」に潜むリスクを指摘する記事が掲載されていました。
www.nikkei.com本記事では、誰が国内管理人に就任するかによって、管理組合の意思決定が歪められるおそれがあるという点が問題視されています。
<上記記事で指摘されているリスク>
(1)国内管理人の資格要件について特段の制限がない
国内管理人の資格要件に特段の制限がなく、管理会社、施工業者、賃貸管理会社などの「法人」も排除されていない。
(2)議決権が「特定の事業者」に集まるリスクがある
仮に、特定の事業者が複数の区分所有者から国内管理人に選任された場合は、代理人として多数の議決権を行使できる可能性がある。
(3)利益相反による意思決定の歪みが生じるおそれがある
修繕工事や管理委託契約など、自らの利益に関わる議案について、自社に有利な方向に議決権の行使を誘導される可能性がある。
この制度の詳細を確認してみると、想定外のリスクが将来発生する余地があることは否定できないと思いました。
私は、本制度の導入によって解決したい課題に比べて国内管理人の資格要件が緩いうえに、付与される権限が大きすぎることに問題の本質があるのではないかと考えています。

1.国内管理人制度の概要
国内管理人制度は、海外居住区分所有者との連絡・意思決定を円滑化し、マンション全体の適正管理を維持するために創設された制度です。
海外居住者は、水漏れ対応や設備点検、大規模修繕、管理費・修繕積立金の支払いなどで連絡・対応が遅れやすく、管理組合運営に支障を生じやすいといった問題が背景にあります。
最新版のマンション標準規約では、 「海外に居住する区分所有者は、国内管理人を選任した場合、直ちに理事長へ届け出る旨を定めています。
この制度において、国内管理人は、
①専有部分の保存行為
②専有部分の通常利用・改良行為
③総会招集通知の受領
④総会での議決権行使
⑤管理費等の滞納に関する区分所有者本人への連絡ならびに弁済事務
といった権限が付与されています。
国内管理人が総会で議決権行使する場合は、代理権を証する書面を理事長に提出する必要があります。
一方、 区分所有者が管理費等を滞納した場合でも、国内管理人が管理費等を弁済する義務を負うことはありません。
あくまで弁済の事務を本人に代わって行うだけです。
また、 上記の権限は、管理規約や契約で削除・制限することはできないとされているため、上記の記事で指摘されるリスクに繋がっていると思います。
2.「マンションに特化した新たな財産管理制度」との違い
改正区分所有法には、この「国内管理人制度」のほかにも、「マンションに特化した新たな財産管理制度」として
- 所有者不明専有部分管理制度
- 管理不全専有部分管理制度
- 管理不全共用部分管理制度
というが創設され、それぞれの事情に合った管理人を選任できるようになりました。(下図参照)

(出典:国交省資料「令和7年マンション関係法改正とこれからのマンション管理」)
ただし、これらは、所在不明の所有者や管理不全状態にある専有部分・共用部分について必要な管理行為を行うための制度であり、いずれも管理組合の申立てにもとづいて裁判所が管理人を選任するしくみになっています。
一方、国内管理人制度は、海外に居住する区分所有者本人が任意で選任する代理人という位置付けです。
そのため、国内管理人に対して、管理組合が利益相反行為の防止対策や議決権行使に関する制約を行うことは難しいと思われます。
3.総会における「議決権行使の権限」は本当に必要か?
そもそも、この制度の導入によって解決したかった課題とは、「海外に居住する区分所有者に対する連絡や意思疎通の円滑化」です。
しかし、議決権の行使については、
- 議決権行使書
- 委任状
- 電子メール
- PDFによる議案送付
- オンライン総会
など、海外からでも意思表示する選択肢は多数あります。
つまり、海外に住んでいるからといって、議決権を行使できないわけではありません。
4.本来必要だったのは「国内の連絡窓口」ではないのか?
制度の目的が「海外区分所有者との円滑な連絡」であるならば、必要なのは国内管理人ではなく、国内連絡人の機能ではないでしょうか。
例えば、国内連絡人には、
- 通知の受領
- 緊急時の連絡
- 保存行為への対応
- 管理組合との窓口
のみを認め、組合総会に出席できない場合は、本人が電磁的方法やオンラインなどによって議決権を行使できるように環境を整備する。
その方が、制度の目的に合致しているように思います。
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村上 智史
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