マンション管理会社による9億円の組合財産着服事件の詳細が明らかに!

3月28日付の読売新聞に、「マンション管理組合から従業員が数千万円を着服…九州地方整備局、管理会社を監督処分 」と題した記事が掲載されていました。

 

<参考記事>

www.yomiuri.co.jp

本記事には詳細な経緯は記載されていませんが、「株式会社ダックス」の元従業員が2010年から2022年12月の間に、5つの管理組合から数千万円を横領着服したとのことです。(下記サイト参照)

 

www.mansion.mlcgi.com

また、マス媒体にこそ取り上げられていませんが、独立系大手の「日本ハウズイング」も、今年3月下旬に上記とまったく同様の組合財産着服事件を起こし、国交省の指示処分を受けていました。

 

ところで、昨年11月に発覚した、ビケンテクノの元社員による約9億円にのぼる組合財産着服事件で進捗がありました。

 

<参考記事>

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

同社では、外部専門家(弁護士、公認会計士)による調査委員会を設置し、本件の調査を進めていましたが、その委員会が作成した報告書がウェブ上で公開されていました。

 

この種の事件の報告としてはとても貴重な資料と思われますので、その概略を以下のとおり要約します。

【着服事件の概要】

・組合財産を着服したのは、マンション管理課の課長のX氏(現在所在不明)

・X氏は60 歳で、定年後に管理職待遇で再雇用されていた。

・X 氏が管理組合の複数の組合員やビケンテクノの複数の従業員を対象に、資産運用の目的で金銭を預託するよう投資勧誘を行っていた事実が判明している。

・担当する 14 のマンション管理組合の費用支出の際に必要となる払戻請求書を偽造し、銀行窓口から払戻された現金を着服したものと推認される。

・X 氏が担当する 14 管理組合のうち 8 組合について、X 氏が預金通帳とともに印鑑についても預かり保管しており、法令上の義務である分別管理を遵守できていなかった。

・各組合の決算報告書の預金残高はいずれも X 氏により改ざんされ、実際の預金残高とは乖離していたが、報告書に添付される預金残高証明書も X 氏によって偽造されたため、管理組合が気づかなかった。

・各組合に提出された決算報告書記載の預金残高と銀行から入手した預金残高との差異に相当する金額を着服により生じた損害額と推定した場合、推定される損害額は、合計 9 億 1474 万 4839 円 にのぼる。

 

【社内の管理体制上の問題点】

・各組合との窓口は X 氏が専権として執り行っており、課内には上席者が存在しておらず、X 氏の業務内容を監視・監督する者は不在であった。

・ X 氏は、 課長として部門の業務を統括する立場にあり、X 氏が他の課員に対して決済や報告を求めることはあっても、X 氏の業務内容について決済や報告を求める機会はなく、X 氏の業務の適正について確認する手続きが内部統制上組み込まれていなかった。

・さらに、管理課において、マンション管理適正化法及び適正化指針に基づく業務手順が文書化等の方法で明示されておらず、X 氏が同法及び同指針に反して、管理組合の預金通帳と印鑑の分別保管を行わず、自由に当該預金通帳から金員を領得することが可能であった。

・管理課では、各主担当者が担当する管理組合ごとに、縦割りで業務を遂行し、それぞれの方法で属人的に業務を実施していた。

各担当者間での業務の分担や意見の交換は基本的になされず、各主担当者は他主担当者の管理業務について全く関与していない。 
・その結果、X 氏がマンション管理課の参事として他の主担当者の業務を監督するこ とを除いて、マンション管理課内で各主担当者間の相互牽制が適切に行われていなかった。

・管理課の人事異動は、退職者の発生に伴う補充採用以外には一切行われておらず、他の部門との人員交流はもとより、課内のジョブローテーションも行われていなかった。

・こうした管理課の自律的な管理体制の欠如のほかに、本社管理部門や監査部門による統制の補完も適切に機能していなかったため、不正の発見が遅れ、被害金額が膨らんだ可能性がある。

・また、マンション管理事業は、会社全体の売上の1%にも満たず、損益上重要性が低い部門として評価されてきた。そのため、人材等の見直しその他の経営資源の投入が十分なされてこなかった側面がある。

 

報告書を読む限り、今回の恐るべき不正行為の背景に、この会社の管理業務を軽視する体質や内部統制上の緩みがあったことは否めないところです。

 

また、ビケンテクノに限らず、多くのマンション管理会社においても「各担当者が縦割りで業務を遂行し、それぞれの方法で属人的に業務を実施している」のが実情であり、フロント担当者をその上席者がサポートしているケースはきわめて稀です。

 

このようなお粗末な組織体制が管理業界の「あるある」である以上、今後もこうした着服事件は跡を絶たないことでしょう。

 

 

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村上 智史

村上 智史

株式会社マンション管理見直し本舗代表取締役・All About マンション管理士ガイド。早稲田大学卒業後、三井不動産に入社。土地オーナーとの共同事業、ビル賃貸事業、Jリート(不動産投資信託)の立ち上げに従事した後2013年3月退職。2013年5月 『あなたの資産を守る!マンション管理見直しの極意』(自由国民社刊)を上梓。無関心な住人の多いマンション管理組合が潜在的に抱えるリスクを解消し、長期にわたって資産価値を維持できるソリューションを提供することで、「豊かなマンションライフ」の実現を目指しています。

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