「理事会なしマンション」が増える業界事情と管理組合が抱えるリスクを考える

8月18日付の日本経済新聞に、『「理事会なし」マンション増える事情 三井不動産、住友不動産が試験導入』と題した記事が掲載されていました。

 

www.nikkei.com

本記事の要約は、以下の通りです。

■ 管理会社が理事会に代わってマンションを維持管理する「第三者管理方式」の導入が広がっている。

■ 管理組合に設置された理事会が、管理会社や工事会社との折衝に当たる「理事会方式」を採用しているのが一般的。組合の理事長は「管理者」と呼ばれ、マンション管理の最高責任者と位置づけられる。
■「 第三者管理方式」とは、区分所有者の代わりに外部の専門家が管理者となってマンションの維持管理に責任を負うしくみのこと。

■ したがって、上記のケースでは、組合総会の開催や修繕計画の策定、修繕積立金の管理、居住者への報告といった理事会のすべての業務を実質的に管理会社が担うことになる。

■ 区分所有者は、管理会社が適切に業務を進めているかを監督し、組合総会などで管理会社の提案に賛否を示すだけでよくなる。

■ 第三者管理方式は組合運営に無関心な購入者が多いリゾートマンションや投資用マンションの管理手法として普及していた。ただ、国土交通省の調査によると、管理会社を管理者に選定したマンションは2018年度時点で6%にすぎなかった。

■ しかし、近年は一般的な分譲マンションでも導入する物件が増えている。共働き世帯が一般的になるなか、休日が活動の中心となる理事会業務を負担に感じる人は多い。そのため「理事にならなくてよい」というのがデベロッパーの売り文句になる。

■ 大手では三井不動産や住友不動産が試験導入している。住友不動産では都心部を中心に10件弱で採用済みで、購入者の反応を踏まえて導入物件を増やしていくという。

■ 一方、長谷工コミュニティや合人社計画研究所は既存の管理物件に第三者管理方式の導入を提案している。

■ 合人社グループでは管理受託中の約5000の組合のうち、すでに2割を第三者管理方式に切り替えた。長谷工コミュニティでは、首都圏と関西で合わせて20件近くの物件で導入済みとのこと。

■ 第三者管理方式を採用すると、区分所有者者は理事業務から解放される半面、維持管理への関心低下や管理会社への監視の目が甘くなる懸念があるという専門家の指摘もある。
■ 長谷工コミュニティはそうした懸念を払拭すべく専用アプリを開発し、居住者からの提案や意見をいつでも投稿でき、賛同の多いアイデアはオンライン投票で実現できるようにするほか、組合内の情報や報告も公開して透明性の向上を図っているという。
■ マンションは経年化に伴って住民の高齢化や売却や相続等での入替えなどによって多様化が進む。大規模物件ほど意見を集約するのは難しくなるため、今後は第三者管理方式を採用する物件は増えていく可能性が高い。

■ ただ、「理事会がなくなることで住民同士の交流が失われる側面もあるので、慎重に導入を判断する必要がある」と専門家は指摘する。

 

本記事には、下の図も添付されていました。<出典:日本経済新聞>

 

 

ただ、これは「一般的な第三者管理方式」ではないため、読者に誤解を与えかねません。

 

国交省によるれば、「第三者管理方式」(「管理者管理」とも言う)の類型として以下の3つのスキームが示されています。

1)理事長外部専門家型
    2)外部管理者理事会監督型
3)外部管理者総会監督型

 

本記事で紹介されているのは、上記の3)の「外部管理者総会監督型」です。

 

1)の「理事長外部専門家型」の場合には、理事長職をマンション管理士などの外部専門家に委託するケースが考えられます。(なお、他の理事や監事は区分所有者から選任する前提です。)

 

たとえば、管理会社の選定や、大規模修繕工事、設備工事などの専門的な知見を有する重要課題について検討を管理者に依頼したうえで、理事会でその検討結果を確認・協議したうえで総会に諮り最終的な意思決定をします。

 

メリットとしては、専門的な課題の検討を外部専門家に委託することによって、組合員である理事の業務負荷が軽減されます。

<当社の「マンション管理見張り隊」は、組合の顧問役になるため、理事長や管理者には就任しませんが、実質的な役割・機能としてはこれに近いと思います>

 

一方、想定されるリスクとしては、外部専門家が外部の施工業者等と結託して、バックマージンをもらうなどの利益相反行為に及ぶ可能性があるため、理事会によるチェックやモニタリング機能が重要になってきます。

 

2)の「外部管理者理事会監督型」の場合、一般的には管理規約上の理事長の役割と区分所有法上の管理者とは同じ扱いになっているところ、管理者の役割を理事長の機能から切り出したうえで理事会全体として管理者の職務執行を管理・監督する仕組みとして想定しています。

 

それでは、本記事で紹介されている、3)の「外部管理者総会監督型」はどうでしょうか?

 

組合内に理事会自体を設置しないため、1〜2年の周期で輪番制が採用されることの多い組合員の役員就任の負担が一切ありません。

 

これがマンション購入者にとって評価される最大のポイントになっているのでしょう。

 

その一方で、外部専門家をチェックする機会が基本的に年1回の組合総会しかないため、自ずから管理者に対するチェック・モニタリングの機会が減ることになります。

 

そのため、管理組合との利益相反リスクが最も顕在化しやすいという問題を抱えています。

 

たとえば、管理組合の財政運営を握る重要な契約として、管理委託契約のほかに、大規模修繕工事やエレベーターや機械式駐車場といった共用設備の更新工事等の請負契約がありますが、その発注すべてについて管理会社に権限を委ねることになります。

 

その場合、考えられる最大の利益相反リスクは、「民法上の自己契約に該当するケース」です。自己契約とは、契約などの法律行為において、自分自身が相手方の代理人になることです。

 

管理委託契約はもちろんのこと、大規模修繕工事などの大きな支出を伴う案件が、管理会社が受注することも当然ながらあり得るでしょう。

 

また、修繕工事等を直接管理会社に発注しないとしても、施工業者からのバックマージンを管理会社が受け取ることによって自己契約と同じリスクを抱えることにも留意すべきです。

 

ましてや、専門的な知識や知見を持たない「素人」の区分所有者で構成されるのが一般的な管理組合が年1回の総会だけで管理者の仕事ぶりをチェックするのは容易ではありません。

 

そもそも論として、

管理委託費が割高なケースが多い、竣工当初の修繕積立金の設定が低すぎるため将来的な段階増額リスクが大きいといったほとんどの管理組合が抱える「古くて新しい課題」の解決も、理事会が設置されていない管理組合ではもはや「お手上げ」状態になってしまいかねません

 

なぜかというと、将来的に第三者管理方式が利益相反リスクがあるため理事会方式に変更したいと思っても、「管理規約の変更」の壁が立ち塞がってくるからです。

 

管理規約の変更は、区分所有法上の「特別決議事項」に該当するため、区分所有者全体の4分の3以上の賛成が必要です。

 

理事会も設置されていない組合で、この壁を突破するのは至難の技です。

 

たしかに、昨今はあまり珍しくもなくなった千戸単位の大規模マンションで、組合理事長に就任するのは精神的にもキツいものがあるでしょう。修繕積立金の残高も余裕で億単位になるでしょうから、その運用責任だけでも重大です。

 

一方、理事会の運営をサポートする管理会社側も、日常の理事会運営や区分所有者との調整等で心身ともに疲弊するケースも増えていると慮れるので、第三者管理方式に移行する動機や背景についてはよく理解できます。

 

だからこそ、第三者管理方式を導入するデベロッパーなどの事業者は、こうした利益相反リスクを顕在化させない仕組みをいかに構築するか、区分所有者に安心感を与えるためにどのように説明責任を果たすのかについてもっと腐心しなくてはならないと思います。

 

<参考記事>

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

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村上 智史

村上 智史

株式会社マンション管理見直し本舗代表取締役・All About マンション管理士ガイド。早稲田大学卒業後、三井不動産に入社。土地オーナーとの共同事業、ビル賃貸事業、Jリート(不動産投資信託)の立ち上げに従事した後2013年3月退職。2013年5月 『あなたの資産を守る!マンション管理見直しの極意』(自由国民社刊)を上梓。無関心な住人の多いマンション管理組合が潜在的に抱えるリスクを解消し、長期にわたって資産価値を維持できるソリューションを提供することで、「豊かなマンションライフ」の実現を目指しています。

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