物語のなかの集合住宅:第10回『ピカ☆ンチ LIFE IS HARDだけどHAPPY』――団地とは青春だ

 

東京のマンモス団地「八塩(やしお)団地」で暮らす高校生5人の青春コメディ――というより、嵐の初主演映画と言ったほうが早いだろうか。公開は2002年。2004年には続編が、そして2014年8月には3作目の『ピカ☆★☆ンチ LIFE IS HARD たぶん HAPPY』が公開された。

「八塩」は「八潮」のもじり。「八潮」は品川区東部、東京湾に浮かぶ埋立地に実在する地名で、モデルとなった団地群も実際にある。大井ふ頭なども有するこの埋立地と“本土”とは京浜運河に架けられた何本かの橋によってのみ接続されており、埋立地内に鉄道駅はない。東京港を挟んだ対岸には「13号埋立地」、つまりお台場などのある東京臨海副都心が見える。

物語冒頭では、この地区が東京都内にもかかわらず、いかに隔絶された場所であるかという解説がコメディタッチで語られる。団地内には学校、病院、スーパーといった生活インフラがひととおり揃っているため、外へ勤めにでも出ない限り、橋を渡って八潮地区から出なくても十分に生活できる。特に主人公たちのような学生なら、なおさら出る理由がない。

また、団地各棟の住民たちは互いの顔を完全に見知っている。江戸の長屋的な人情味あふれる近所付き合いも頻繁で、団地内盆踊りのような地元イベントは活況だ。何より、ここで暮らす住人は皆、地元・八潮団地を愛している。殺伐とした都会にはない、満ち足りた、ユートピアのような空間そのものだ。ゆえにここで生まれ、ここで育ち、ここで家庭を持ち、老いていく者も多い。平穏で幸福な人生を送れるはずだ。

しかし主人公たちは、その「保証された快適な環境」から脱出しようする。彼らは冒頭から、原宿にナンパに行くという大冒険を繰り広げ、見事に辛酸を舐めるのだ。せっかく用意されている快適な環境をわざわざ捨て、外に漕ぎ出した挙句、痛い目を見る――。いつの世も、大人たちはそれを考えの浅い行為だと笑い飛ばすものだが、人間がそういう“考えの浅い”挑戦を繰り返しながら、叡智を養い、文明を進歩させてきたのも、また事実であろう。

本作の舞台が「団地」なのは象徴的だ。そもそも団地とは、1950年代以降、都市部の急激な人口増加に対応すべく、狭い場所に「計画的かつ人為的につくった」集合住宅である。交通の便や住環境を綿密に検証し、機能を極限まで考慮してつくった究極のインフラにして、人類の叡智の結晶。それは、古来より血縁や気候などの関わりの中でゆるやかに決定されてきた「住居を決める方法」の常識に対する、人間の大胆な反旗の証であり、強い意志の表れだ。

快適でぬるま湯な閉鎖空間から脱出しようともがく主人公たちの姿と、団地というものの成り立ち。その二者は「定着済みのルールに従わないこと」という、青々しくも美しい人類の反抗精神そのもの。人はそれを「青春」と呼ぶ。

極めつけが、土地の由来である。そもそもこの地区は、1939年に東京湾を埋め立てはじめる前には存在しない土地だった。「八潮」という地名が生まれたのも、たかだか34年前、1980年のことである。もともと海だったところに、自然に反するかたちで土地を創りだした。ゼロを1にした。これも人類の叡智であり、自然に対する反旗であり、「定着済みのルールに従わないこと」の極みと言わずして、なんと言おうか。

「高校生」「団地」「埋立地」。すなわち「人」「建物」「場所」の三者によって規定された、三重の意味で正しい青春映画こそが本作なのである。

 

[Photo by jun560
『ピカ☆ンチ LIFE IS HARDだけどHAPPY』(2002年・日)
監督: 堤幸彦
出演:嵐(相葉雅紀、松本潤、二宮和也、大野智、櫻井翔)

 


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稲田 豊史
編集者/ライター。キネマ旬報社でDVD雑誌編集長、書籍編集者を経てフリー。主な分野は映画、お笑い、ポップカルチャー。編集担当書籍に「団地団 ~ベランダから見渡す映画論~」「人生で大切なことは全部フジテレビで学んだ」「全方位型お笑いマガジン コメ旬」「『おもしろい』映画と『つまらない』映画の見分け方」「『ぴあ』の時代」「成熟という檻 『魔法少女まどか☆マギカ』論」「特撮ヒーロー番組のつくりかた」などがある。URL

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