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2024/07/05
同じマンションのお隣同士であるデザイナー志望の幸田実果子(みかこ)と山口ツトムの恋愛模様を軸にした青春物語、それが『ご近所物語』だ。作者は矢沢あい。1995年から97年にかけて少女誌『りぼん』で発表され、大人気を博したマンガ作品である。
矢沢あい作品の特徴と言えば、のちに映画化もされた『Paradise Kiss』や『NANA』と同じく、徹底的にこだわったファッションアイテムの描写だ。洗練にしてクール、一言で言えば「オシャレ」。しかし一方で、登場人物の設定はかなり泥臭い“ヤンキー性”に満ちている。例えばこうだ。
実果子の両親は離婚しており、実果子は気丈な反面、強烈に父性を求めている。
実果子や実果子を取り巻く友人たちは、人生の早い段階で「特定の職能を身につけよう」と決意済みの専門学校生である。
実果子や実果子の女友達は、恋愛に対してみな一様に打算がなく、徹底的に純情である。対する男友達は、みな一様に古風なほど侠気(おとこぎ)にあふれている。
実果子とツトムの17歳時点でのベッドインがはっきりと描かれる。
登場する大人たちは、まだ10代の実果子たちを甘やかさない。大人の規範を厳しく教えこむ描写が多い。
したがって実果子たちにはモラトリアム期間がない、もしくはとても短い。
ラストでは主要登場人物が早々に(20代前半で)子供をつくっている。
ぐれたヤンキー少女の、両親どちらかが欠けている設定は不良少女物語の典型である。ヤンキーは専門学校に行く。ヤンキーは恋愛に対して驚くほど純情であり、感情に裏表がない。ヤンキーは性体験が早い。ヤンキー社会は上下に厳しく、地域の先輩から手加減なしで「掟」を教えこまれる。ヤンキーは早くに就職する。そしてヤンキーは早婚だ。……と、異論反論はあろうが、おおむね世間に浸透したヤンキー像と『ご近所物語』の人物設定は相似形をなす。
しかし、本作を食い入るように読み、実果子たちに憧れたはずのかつての少女たちは今、むしろこれとは真逆の世界で生きている。30歳も近づいたのにいまだに「自分探し」や「やりたいこと探し」でモラトリアム継続中。恋愛に際しては策を練りまくり、女性誌お得意の“愛されテクニック”に惑わされた挙句、こじらせ女子やおひとりさまが増え続け、晩婚化・非婚化も進行するばかり。
実果子たちにあって、かつて『ご近所物語』読者だった彼女たちにないもの、それはタイトルにもある「ご近所」だ。うざったいながらも世話を焼いてくれるご近所。他人なのに叱ってくれるご近所。生涯の友や伴侶が住むご近所。仕事の業績や「いいね」の数に関係なく自分を気にかけてくれるご近所。特に都会でひとり暮らしのアラサー女性たちに、「ご近所」は決定的に欠けている。
「ご近所」とは地縁、地元のことだ。たしかに、上京しないヤンキーは地元とべったりだ。地元を誇る。地元の店で飲み、地元の友達と地元で遊ぶ。地元の異性と恋に落ち、地元に居を構え、地元で家族をつくり、一生を終える。
「私は地元なんかに縛られたくないから上京したの」と言うなかれ。実果子は物語のラスト、デザイナーになる夢を叶えるためロンドンに渡り、その豊かな才能を開花させる。しかも、「ご近所」で育まれた人間関係は捨てていない。
「ご近所」はあなたを縛らない。「ご近所」はあなたを包み、育てる。オシャレなマンション住まいであってもそれは同じだと、実果子は教えてくれる。
次に帰省するとき、地元のヤンキー家族が集うショッピングモールにでも行けば、それがわかるはずだ。彼らの表情は穏やかである。“地元に縛られたくないから上京して”ご近所を持たなかった“貴女”よりは、ずっと。
[Photo by Dick Thomas Johnson]
『ご近所物語』
矢沢あい・作
連載期間:1995〜97年
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この物語の主人公は中学時代にヤンキーにいじめられてて、専門的な高校でやっと自分を解放できたって話なので、
マイルドヤンキー的な「大きな中学校=地元」志向に結び付けるのは無理がありすぎる