東京・板橋区の「良質なマンション推進条例」は効果が見込めるか?

12月4日のNHKニュース(おはよう日本)で、東京の板橋区はマンションの適正な管理を促すため、新条例の制定を目指すことになったと報じられました。

記事の要約は以下のとおりです。

  • 東京 板橋区で老朽化が進んだ分譲マンションでは管理組合が十分機能していない事例が増加している。
  • こうしたマンションの適正な管理を促すため、板橋区は新条例の制定を目指すことになった。
  • 条例案では管理規約ならびに長期修繕計画の作成をしたうえで、区への届け出が義務づけられた。
  • 違反を繰り返すなど悪質な場合には、マンション名・所在地などを公表する罰則が設けられた。

このような条例は、板橋区に先んじてすでに2013年7月に豊島区も制定しており、マンション管理組合に対して「マンション管理状況届出書」の提出(および5年ごとの更新)手続きを義務化しています

区のホームページでは、以下の項目についてその有無と保管場所を届出用紙に記載の上提出することが定められています。

・管理者等(理事長)
・管理規約
・区分所有者名簿
・居住者等名簿
・設計図書
・修繕履歴
・管理組合用郵便受け
・緊急連絡先表示板
・法定点検・定期点検の実施
・長期修繕計画
・町会の加入

ただし、こうした届出が「義務化」されたとは言っても、あくまで管理組合側の主体性に委ねられており、決して厳格なものではありません。

その証拠に、豊島区の案内文書には以下のようなQ&Aも記載されています。

Q.届出書を提出しないとどうなりますか。
A.条例では、指導・要請・勧告をしても届出書を提出しないマンションに対し、マンション名の公表を行う罰則があります。届出書の提出が難しいご事情等があればご相談ください。

Q.条例の義務項目の内容を現在満たしていない場合、すぐに罰則が適用されるのですか。
A.『マンション管理状況届出書』は、現在の管理状況を管理組合と区の双方で把握し、改善していくためのものですので、義務項目を満たしていないということで直ちに罰則が適用されることはありません。

これでは、思惑通り管理組合からすべからく届出がなされ、運営の適正化が促されるとはとても思えません。

まもなく制定される板橋区の条例も、豊島区の条例をほぼ踏襲しているように見受けられます。

もともと管理組合の設立や年1回の定期総会の開催等は条例の制定以前に区分所有法で義務付けられているのですから、これさえ違反している管理組合に対してはなんらかのペナルティを科すことが必要なのでしょう。

しかし、現行法にしても条例にしても罰則らしいものは設けられておらず、届出がきちんと履行される仕組みが担保されているとは言い難い状況です。

もっとも、罰則を科そうにも、現状ではマンションの区分所有者を正確に把握することも容易ではありません。

その理由は、不動産登記は法的義務ではないからです。

昨今、地方を中心に所有者不明の不動産が急増しており、面積ベースでは今や「九州」の規模にも匹敵するようです。

相続が発生しても登記情報を変更する手続きが行われないため、各自治体は課税対象者をタイムリーに把握することもままならず、固定資産税の徴税手続きに苦心しています。

今後は、こうした所有者不明化問題ともあいまって、老朽分譲マンションの管理不全問題がますます深刻化していくことが懸念されます。

 

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村上 智史

村上 智史

株式会社マンション管理見直し本舗代表取締役・All About マンション管理士ガイド。早稲田大学卒業後、三井不動産に入社。土地オーナーとの共同事業、ビル賃貸事業、Jリート(不動産投資信託)の立ち上げに従事した後2013年3月退職。2013年5月 『あなたの資産を守る!マンション管理見直しの極意』(自由国民社刊)を上梓。無関心な住人の多いマンション管理組合が潜在的に抱えるリスクを解消し、長期にわたって資産価値を維持できるソリューションを提供することで、「豊かなマンションライフ」の実現を目指しています。

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