マンション管理費の長期滞納問題、知っておくべき解決方法と事前の対策
2024/07/05
10月19日に放映されたNHKの「クローズアップ現代+」で、マンションの修繕積立金がコンサルタントや工事業者に搾取される実態が取り上げられていました。
番組の内容を要約すると、おおむね以下の通りです。
【事例 その1】
180世帯のマンションでは、大規模修繕のために起用した設計事務所(A社)が見積もった概算工事費が3億6千万円にものぼった。これは当時の管理組合の修繕積立金残高をほぼ同額であった。
不審に思い、別の建築士に見積もってもらったところ、それより1億円以上安かったた。そのため、A社抜きで施工業者を選定しようとしたところ、A社から本業務を辞退するとの連絡があった。
一部の設計事務所に見られる「やり口」とは……
まず報酬を安く見積もってコンサル業務を受託し、その後施工業者の選定に関与しつつ、落札した工事業者からバックマージンを受け取って目標の利益を確保する。
そのマージンは修繕費用に上乗せされているということだ。
関係者によると、「バックマージンを断ると、設計コンサル業界でその情報が共有され、その工事業者は声がかからなくなり、以後入札の参加さえ難しくなる」との由。
【事例 その2】
26世帯のマンションでは、格安の設計コンサルを起用して、2回目の大規模修繕を実施した。やはり修繕積立金の残高とほぼ同じの費用(約4千万円)がかかった。しかし、工事後の報告も不十分で、その後外壁タイルの不具合が多数見つかったため工事のやり直しを要請したものの、業者は補修に応じてくれなかった。
本ケースの解説として、設計コンサルの施工品質に対するチェックが甘いこと、また施工業者がバックマージン(修繕費の10〜20%)を負担する構図のため、自社の利益も確保しようとして工事が手抜きになるケースがあるとのこと。
こうした分譲マンションの修繕工事をめぐるトラブルの起きる背景として、2つの要因が考えられる。
1)新築マンションの供給減少に伴い、多くの建築士が修繕工事の市場に流れたが、修繕工事のコンサル報酬に関する適正水準がないため、バックマージンの慣習が生まれたこと。
2)マンション住民が総じて無関心なため、工事業界に関する情報が共有されにくいこと。
一方、マンション管理会社が設計コンサルの役割を兼ねるケースも多く、バックマージンや「場所代」を工事業者に請求する事例が見られるとのこと。
「悪質コンサルの見分け方」の一例として、「不自然な入札条件」を設定していることが紹介されました。
たとえば、施工業者の応募条件として「資本金1億円以上」など、ほとんどの工事業者が入札に参加できない条件を設定しているような場合は、あらかじめ水面下でコンサルが提携している工事業者がいるため、高いハードルを設定することによって競合業者を排除することを目的としたものではないかと推察できる……とのこと。
最後に、「悪質コンサルから身を守るための方法」について解説がありました。
<ポイント1> 格安のコンサル報酬には要注意
<ポイント2> 工事金額の目安を知る
業界にいる人間としては、こうした話はどこまで事実かはさておき、まことしやかに流通していることは事実です。
本ブログでは、番組で紹介されたアドバイスに加えて、管理組合として知っておいてもらいたい事項として以下2点を追記しておきます。
1)設計事務所を起用する目的を明確にしておく
管理組合が施工業者に見積りを依頼すると、チェックが甘いことをよいことにまだ修繕が不要な箇所も含められてしまうリスクがあります。(工事範囲が多いほど、売り上げも増えるという仕組みのため。)
番組でも紹介されていたように、管理組合の財布具合(=修繕積立金の残高)から、どこまでが上限リミットかも認識しているのでなおさらです。
一方、設計事務所を起用する主な目的は、見積書の前提条件となる工事範囲と工事の仕様(部分補修か、全面更新かなど)を決めること、そして外部の専門家に施工後の品質チェックをさせることの2つだと考えます。
必要な工事範囲と工事の仕様を決めたうえで、適正な工事予算の目安を把握することが肝要です。設計事務所を選ぶ際には、その点を重視して事務所の「力量」を確認することが必要でしょう。
2)施工業者の「大規模工事瑕疵保険」への加入を発注条件にする
これは、法律にもとづいて国(国交大臣)が認可した保険法人だけが取り扱える「現場検査付きの工事保険」です。
修繕工事の後に瑕疵が見つかり、高額な補修費用を工事会社が負担しなくてはならなくなった場合でも、あらかじめこの工事保険に加入しておくと、修補費用に近い保険金が工事業者に支払われる、というものです。
また、瑕疵が見つかった際に、その工事業者が倒産等で消滅していた場合には、たとえ工事請負契約に瑕疵担保責任が明記されていても、発注者はその履行を請求できなくなってしまいます。
しかし、このようなケースでも工事業者がこの保険に加入さえしていれば、発注者(管理組合)が保険法人に対して直接保険金を請求できます。
したがって、施工業者がこの保険に加入していれば、大手ゼネコンや管理会社でなくとも、発注先のクレジットをそれほど気にする必要がなくなります。
また、施工品質への不安やリスクについても、この保険で手当てがなされています。
施工業者の保険加入を認める条件として、対象となる工事が一定の施工基準を満たしていることを確認することが必要条件となっているため、着工前と完了後に保険法人の検査員(一級建築士等)が現場で検査を実施するからです。
そのため、責任施工方式を選んでも(=工事監理を設計事務所に委託しなくても)、瑕疵の発生リスクを低減する効果が期待できると思われます。
<参考記事>
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