国が「第三者管理者方式のマンション」向けにガイドラインを策定中!

昨年12月23日付の朝日新聞に、『「割高」修繕費に国が対策指針 理事会なしマンション管理に「監事」』と題した記事が掲載されていました。

 

<参考記事>

digital.asahi.com

本記事の要約は以下のとおりです。

■ 分譲マンションでは通常、管理組合が区分所有者の中から選任した役員で構成される理事会が運営を担う。

■ ただ、組合活動の煩わしさに加えて、住民の高齢化などで役員のなり手が少ないことから、理事会(筆者注:区分所有法上の「管理者」を含む)の役割を管理業者に委ねる「第三者管理方式」が増えている

■ マンション管理業協会の今春の調査では、第三者管理を「受託している」「今後の受託を検討」とした業者は167社で、3年前に比べて約3割増えている

■ 第三者管理方式のマンションについて、国土交通省は、管理業者の運営状況をチェックする「監事」を設けるよう管理指針を見直す。

■ 第三者管理では、住民の目が管理業者に行き届かなくなりがち。また、その立場を利用して管理業者が修繕工事を同じグループの会社に割高な金額で発注する例もある。

■ そのため、管理組合に不正や不当なもうけがないかをチェックする監事を設置し、税理士やマンション管理士などの専門家から選ぶよう求める。

■また、 大規模修繕を手がける施工会社は、監事と住民でつくる「修繕委員会」が選び、管理業者は関与しないようにする。小規模な工事でも業者が関連会社と取引する場合は、住民の決議を得るようにする。

管理者の任期は原則1年とし、管理組合の総会で再任するかどうかを決めるようにする。また、組合口座の通帳などは管理業者だけに管理させないようにする案も出ている。
■ 国交省が「外部専門家の活用ガイドライン」の改訂案を12月26日の有識者会議で示しており、来春にも運用を始める見込み。

 

区分所有法では、管理組合の代表者として「管理者」が設置することを想定しています。(設置自体は義務ではありません)

管理者の資格要件は特になく、区分所有者以外の外部からも選任が可能です。

 

ただ、管理組合自治主義の考えにもとづき、国の「標準管理規約」では、管理者(理事長)を区分所有者の中から選任するとともに、理事会による組合運営を想定しています

 

しかしながら、管理組合の運営には一定の専門知識が求められること、また昨今の高齢化等に伴う役員の成り手不足の深刻化を背景に、マンション管理会社(管理業者)が「管理者」を兼ねる運営方式のマンションが増えているのです。

 

このスキームを「第三者管理方式」と呼びます。

 

【国交省「今後のマンション政策のあり方に関する検討会とりまとめ」資料より】

このスキームの場合、上図のとおり、管理業者(マンション管理会社)が管理者を兼ねることによって、管理組合内に理事会(理事長)を設置する必要がなくなります

 

そのため、管理組合の立場からすると、

区分所有者が理事会役員の就任義務から解放されるというメリットがあります。

 

一方、「管理会社が管理者を兼ねる第三者管理者方式」の場合は、理事会のチェックやモニタリング機能が働かなくなるため、性悪説で考えると「管理会社によるお手盛り運営」に陥る大きなリスクが潜んでいます

 

その最大のリスクとは、管理組合との利益相反の問題です。

 

上の記事でも紹介されていますが、大規模修繕工事において発注側(管理者)と受注側(施工業者)が実質的に同一グループとなる場合に不適切な発注が行われることによって、以下のとおり区分所有者が不利益を蒙るリスクが生じると考えられます。

(1)管理者が工事内容や工事金額について施工会社の意向に従って発注を行うことで管理組合の財産が毀損されるおそれ
(2)施工会社の選定プロセスにおいて発注予定などの情報を自社グループに共有することで公正な選任プロセスを害するおそれ
(3)設計コンサルタントが起用されたとしても、管理者の意向を尊重せざるを得ないため、中立的に施工会社を監督するという役割を果たすことができないおそれ

 

マンションの管理者には「管理組合の代表者」として広範囲な権限が与えられており、以下のような重要な議案を総会に上程することができ、原則として総会で出席者の過半数の賛成さえがあれば実行できてしまいます。

・管理費や修繕積立金、専用使用料の改定

・長期修繕計画の更新

・大規模修繕・設備更新を含む諸々の工事の発注

・管理規約の改定(特別決議事項:4分の3以上の賛成が必要)

・使用細則の改定

・今期決算報告と来期予算案

・管理委託契約の締結・更新

 

極端に言えば、

管理会社が自己の利益拡大を図るために管理委託費を増額したり、さほど必要性のない修繕工事を実施する。

その結果、管理組合の財政状況が逼迫したら、管理費や修繕積立金の増額改定を提案する・・といった「お手盛り経営」になる陥る可能性がないとは言えません。

 

こうした事情から、国はマンション管理組合が大きな不利益を蒙ることがないよう以下の論点でガイドラインの策定を進めているので、その概要を記しておきます。

 

1.第三者管理者方式を導入するプロセスについて
組合内での十分な検討や管理会社からの十分な説明がないまま、第三者管理者方式が導入されるおそれがあるため、管理業者から区分所有者に対して積極的に以下の内容を情報提供するよう定める。
 【管理業者から区分所有者に情報提供すべき事項(案)】
 ・管理者の権限の範囲
 ・通帳・印鑑の保管のあり方
 ・管理業者が管理者の地位を離れる場合のプロセス
 ・日常の管理での利益相反取引等におけるプロセスや情報開示のあり方
 ・大規模修繕工事等におけるプロセスや情報開示のあり方
 ・監事の設置と監査のあり方
2.管理組合運営のあり方(管理者権限の範囲等)について
(1)管理者業務委託契約書締結の要件
 管理委託契約とは別に、管理者業務委託契約書を別途締結する。
 緊急時の対応、管理者としての業務報告、契約途中の解約、契約更新等の条件を明記する。
(2)管理規約の変更に関する留意事項
・管理者の指定については、個社名を記載するのではなく、総会の決議によって選任・解任できるものとする 。
・管理者の任期は原則1年程度とし、毎年開催する総会において管理者の選任(継続・不再任等)の決議を行う。
・総会決議事項として以下の項目を追加。
 管理者業務委託契約の締結、 監事業務委託契約の締結、業務監査基準の制定・変更
3.管理組合の財産の分別管理について
・管理業者が管理者として選任されている場合は印鑑等を保管しないこととすべきか。その場合、印鑑等の保管先を「監事」とするか。
・管理組合として恣意的な引き出しを防止する措置を講じることを前提に、管理業者が管理者として印鑑等を保管することを選択できる余地を残すか
・透明性を担保するため、管理者向けの月次会計報告書を区分所有者にも送付する。
4.管理業者が管理者の地位を辞する場合のプロセスについて
・辞任もしくは解任によって管理業者が管理者の地位を離れる場合、新たに管理者に選任される者や新たに委任する管理業者への管理に関する情報の引き継ぎ等について現管理業者には協力してもらうことが必要。
・管理業者が辞任又は不再任の場合、退任の効力発生日(退任決定から3か月程度)までは引き続き管理者の地位にとどまることとする。
・解任の場合、総会の決議後速やかにその効力が発生するが、新管理者が選任されるまでの期間について監事が管理者業務を担うものとする。
・新たな規約や新管理者の選任に際して、監事を中心に臨時総会の調整(退任決定日から1か月以内を目途とした総会招集)を行う 。
・解約時における円滑な業務引継のため、 努力義務等として後任の管理者の選定の支 援、後任者への円滑な業務引継義務、 管理組合から提供を受けた書類の返却義務等について定めておくことが望ましい 。
5.利益相反取引等のプロセスと情報開示のあり方
発注額が一定額 未満の場合には管理者ができる旨の規約を定める等の場合でも、管理者が利益相反取引等を行うことがあり得ることを明確に説明すべき。
・「契約金額が規約で定める額未満かつ管理業者と同一グループでない会社」である場合を除いて、個別に承認決議を必要とする。
・決算案の承認に際し、毎期の決算書において契約内容、 相手方、契約金額等を注記する。また、監事の会計監査を経たうえで通常総会において承認を得る。
・大規模修繕工事の進め方(案)
①(管理者ではなく)区分所有者から構成される修繕委員会を主体として進める 。
②修繕委員会の構成員に監事も含める。
6.監事の設置と監査のあり方
区分所有者以外の第三者が管理者に就く場合において、監事の選任を必須とする
・監事については、(管理者による指名ではなく)総会決議により選任する。
・監事の担い手として、外部専門家(マンション管理士等)の選任を必須とする 。

 

利益相反リスクをどこまで低減できるかについては、

組合財産の管理方法、監事の権限と資格要件、管理規約の条文規定、大規模修繕工事等の実施方法をどこまでルール化できるかにかかっているように思います。

 

<参考記事>

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

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村上 智史

村上 智史

株式会社マンション管理見直し本舗代表取締役・All About マンション管理士ガイド。早稲田大学卒業後、三井不動産に入社。土地オーナーとの共同事業、ビル賃貸事業、Jリート(不動産投資信託)の立ち上げに従事した後2013年3月退職。2013年5月 『あなたの資産を守る!マンション管理見直しの極意』(自由国民社刊)を上梓。無関心な住人の多いマンション管理組合が潜在的に抱えるリスクを解消し、長期にわたって資産価値を維持できるソリューションを提供することで、「豊かなマンションライフ」の実現を目指しています。

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