マンション管理組合に忍び寄る「所有者不明住戸」問題

11月15日(火)のNHKニュースで、老朽マンションにおける所有者不明部屋の発生に伴う問題について取り上げられていました。

 

www3.nhk.or.jp

その要旨は以下のとおりです。

■ 人知れず、マンションの部屋の住人がいなくなる。今、そんなケースが相次いでいることがわかってきた。

■ この問題で、マンションの管理費の値上げや、建て替えができないという事態にもつながっている。

■ 築50年年の千葉県内にあるマンション。この部屋に住んでいた高齢の男性といつからか、連絡がとれなくなってしまった。

■ マンションの理事長が調べた結果、住んでいた男性は、7年ほど前に別の場所で亡くなったらしいことがわかった。

■ 所有者が不明になったことで管理組合が最初に直面したのが「管理費の滞納」である。

■ マンションの資産価値を維持するには、共用部分の日常的な手入れや、定期的な修繕工事を怠ると適切な維持修繕が欠かせない。その原資となるのが、所有者が支払う「管理費」や「修繕積立金」であるが、所有者が不明になると、このお金が支払われなくなる。

■ 先ほどの部屋のケースでは、滞納額は80万円余り。遅延金も含めると100万円以上になった。
■ その後、管理組合が調査した結果、亡くなった男性には兄弟もいたが、「相続放棄」していたことが分かり、請求すべき相手がいないことが判明した。

■ やむを得ず、この管理組合は、財産管理人を立て、部屋の資産整理を進めたもののが、結局未納分の管理費は回収できなかった。

■ そればかりか、相続人の調査費用や、財産管理人の選任申立費、それに報酬などさらに100万円近くのお金がかかった。

■ このマンションには120の部屋があるが、他にも同様のケースが2件発生しており、数百万円の費用がかかっているという。

■ この管理組合は修繕のための費用が不足する事態となり、節約のために管理会社を解約。一部自主管理に移行するとともに、さらに管理費も、戸あたり月額3500円の値上げに踏み切った。

■ この組合の理事長は、「所有者不明の問題については、問題が発生したらすぐに対処できる仕組みや実情に即した財産管理の在り方をぜひ、検討してほしい」と話す。

■ 2018年の国の調査によると、マンションの部屋の所有者の所在が分からなかったり、連絡が取れなかったりする部屋は、築年数の古い建物ほど多くなる傾向があり、築40年以上のマンションでは13%余りに達している。

■ 築40年以上のマンションの戸数は、2021年現在、115万戸。その数は今後急増し、10年後に2倍、20年後の2041年には425万戸と4倍近くに急増する見込みであるため、今回のような「所有者不明部屋」は、今後さらに増えていくとみられる。

■「所有者不明部屋」の問題は、組合財政以外の問題にも影響が出ており、老朽マンションの建て替えをも阻んでいる。

■ 現在の区分所有法では、原則として「区分所有者」全体の5分の4の合意を得る必要があるため、所在不明の区分所有者の意思を確認できないと合意形成に支障が生じる。

■ 所有者不明の部屋が発生した管理組合に代わって、所在不明者の特定や滞納された管理費の督促を代行する業者も現れている。

■ その業者は、不明者の行方を登記簿などからたどり、時には現地調査も行って相続人を探し出すとともに、費用回収のための裁判を行うこともあるとのこと。

■ こうした「所有者不明部屋」の問題にどう対応すればいいのか?マンション管理に詳しい識者によると、「所有者不明」の住戸が増えるのは想定外の事態のため、現在の法規制を抜本的に見直すべき段階を迎えていると話す。

■ そのうえで、マンションの住人の高齢化が進む中、管理組合のできる予防策として、以下の対策を勧めている。
・長期不在になる場合の届け出の徹底を促す。
・所有者、居住者の変更届の提出を順守させる。
・組合の定期総会の開催に合わせて、所有者名簿、居住者名簿の確認、更新を行う。
・修繕積立金・管理費の滞納発生状況をタイムリーに把握する。

■ また、「居住者どうしが日頃からコミュニケーションを取り、相互に助け合える環境を整えていくことがとても大切」と話す。

■ マンションの「所有者不明部屋」問題の対応については、法的な整備がほとんど整っていないのが現状である。そのため、国は法改正も視野に対策の検討を進めている。

■ 具体的には、区分所有法を見直し、以下の制度措置を検討している。

・建て替えなどに必要な多数決の要件を緩和する案

・所有者不明の部屋に特化した財産管理制度の創設

 

こちらのブログでも、この問題についてが以前から取り上げていますが、日本社会の高齢化の進行に伴って、区分所有者の所在不明問題は今後間違いなく増加していくでしょう。

 

<参考記事>

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

この問題は、都市部か地方といった所在地や築年数の多寡は問わず、どのマンションでもいつ起こっても不思議ではないリスクと覚悟した方がよいです。

 

所有者不明に伴う管理費の滞納が発生する問題については、NHKの取材記事にも紹介されているとおり、所有者不明となった住戸について「不在者財産管理制度」(あるいは相続放棄の場合には「相続財産管理制度」)を活用してその住戸の売却処分を申請するという方法があります。

 

ただし、それには家庭裁判所への事前の申立てが必要で、100万円程度の「予納金」も納付しなければなりません

 

そのため、このような非常事態に備えて、日頃から管理組合の財政に余裕を持たせるようにマネジメントしていくことが大切です。

 

また、なるべく早期に問題の発生を察知することも重要です。

そのため、管理会社の協力も得ながら、区分所有者の連絡先の届出や変更された情報のアップデート、管理費等の滞納状況に関するモニタリングと回収状況の確認を毎月行うようにしましょう。

 

なお、今年の4月から始まった「マンション管理計画認定制度」の認定基準には、「組合員・居住者の名簿を備え、年1回以上はその内容を確認する」ことが盛り込まれていますが、上記のリスクに対応して項目に加えられたものと思います。

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

一方、区分所有法の改正検討について挙げられている以下2つの論点ですが、

(1)建て替え等に必要となる多数決要件の緩和措置

上記の通り建替えを決議するには区分所有者全体の5分の4の賛成が必要となっており、先ずそれ自体が高いハードルとなっています。

 

ただ、この厳しい成立要件を仮に4分の3や3分の2に引き下げて決議自体を可能にしても、建替えの実施に際しては建て替え反対者の立ち退き問題や多額の資金の確保といった様々な問題を解決する必要があり、これによって建替え事例が増えるかについては疑問が残ります。

 

(2)分譲マンションの管理に特化した財産管理制度

区分所有者が専有部分や共用部分の適切な管理をしないために管理不全状態となって他の区分所有者や近隣の住民等に被害を及ぼす場合に、財産管理人を選任することができれば、継続的で柔軟な管理を行うことが可能になりますが、現行の区分所有法にはそのような制度はありません。

 

そのため、2021年の改正民法における所有者不明建物管理制度や管理不全建物管理制度(下図参照:法務省民事局作成資料の抜粋)を参考に、区分所有マンションの管理に特化した財産管理制度に関する規律を整備することが考えられています。

 

 

ただ、国の法改正などの対応は実態に比べて完全に後手に回っている感があります。

管理組合としてはこうしたリスクを正しく認識したうえで、日頃から発生の予防に努めるとともに、発生した際の基本的な対応も迅速に実行できるよう準備しておくことが重要です。

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村上 智史

村上 智史

株式会社マンション管理見直し本舗代表取締役・All About マンション管理士ガイド。早稲田大学卒業後、三井不動産に入社。土地オーナーとの共同事業、ビル賃貸事業、Jリート(不動産投資信託)の立ち上げに従事した後2013年3月退職。2013年5月 『あなたの資産を守る!マンション管理見直しの極意』(自由国民社刊)を上梓。無関心な住人の多いマンション管理組合が潜在的に抱えるリスクを解消し、長期にわたって資産価値を維持できるソリューションを提供することで、「豊かなマンションライフ」の実現を目指しています。

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