修繕積立金を値上げしなくちゃいけないのは、誰の責任?

 

先日、ある管理組合の理事会に陪席する機会がありました。その際、管理会社から長期修繕計画の内容と今後の積立金の改定プランについて説明がなされました。

このマンションは、まだ築4年目。

誰もが知る大手デベロッパーのブランド名を冠した物件です。

説明の一端をご紹介しましょう。

「昨年当社で作成した長期修繕計画にもとづくと、現状の積立金では大規模修繕を実施する築12年目では残高不足が生じます。」

「このため、A案では、来年の5年目、10年目、15年目でそれぞれ戸当たり月額4千円ずつの増額、20年目でさらに2千円の増額を計画しています。ただ、それでも足らないため、30年間で都合3回別途一時負担金が必要となります。」

「A案の一時負担金を生じさせないために、B案をご用意しました。この場合、5年目、10年目、15年目でそれぞれ8千円ずつの増額が必要です。さらに、25年目に3千円の増額が必要です。」

つまり、このマンションでは現状の積立金が戸当たり平均9,000円/月なので、B案の場合だと25年目では何と最初の4倍(36,000円)にも跳ね上がってしまうというわけです

しかし残念ながら、これが一般的な分譲マンションの「宿命」なのです。

国交省の「修繕積立金ガイドライン」では、30年分の修繕工事費用を賄うためには、均等積立方式を前提とした場合、およそ月額200円/㎡が必要とされています。(※機械式駐車場がある場合は別途加算が必要です。)

70㎡の専有面積なら、月額14,000円ということです。しかしながら、築5年以内のマンションの平均相場は90円/㎡とされ、このマンションもまさにその水準です。

つまり、必要な金額の半分にも満たないということなのです。

その帳尻を合わせようとすれば、当初の積立金を4倍にしなければならなくなるのは、小学生だって予想がつきますね。

では、ここで素朴な疑問です。

それなら、なぜ最初から必要な金額を設定しておかないのでしょうか?

理事の一人である若い男性に「なぜだと思います?」と尋ねてみたところ、「分からない」と返答でした。

お答えしましょう。それは売主であるデベロッパーの販売戦略によるものです。

マンション購入の際、住宅ローンの借入れをする方がほとんどと思いますが、
その際に、デベの販売担当者が資金シミュレーションをしてくれますね。

その際、自分自身の収入に、管理費や修繕積立金などのランニングコストを加味して、ローン借入可能額を試算します。

その際に、修繕積立金が安い方がローンをたくさん借りられますね。

なので、マンションの販売価格も高めに設定できるというわけです。

つまり、売主の都合で修繕積立金は故意に低く設定されているのです。

そこで、先程の管理会社の説明にもどります。この管理会社、当然のことながら、売主の大手デベロッパーの系列子会社です。

なんだ、同じ穴のムジナではないですか!

親会社が自らの利益のためにわざと低目に修繕積立金を設定しおきながら、将来不足することが確実なので、管理組合で値上げを検討してくれって一体どういう了見なのでしょうか。

いかにも「管理組合の皆さんのためですよ」的な親切そうな体で説明する管理会社もこうした「事情」はもちろん熟知しているはずです。(そうでなければ、ある意味プロじゃないと言えるでしょう)

…とそんなことを考えながら、聞かされている私はかなりイラッとしていました。

しかし、朗報です。このマンションでは、今回弊社の管理コスト適正化診断を受けていただけることになりました。

修繕積立金の値上げを少しでも抑制できるよう、管理会社には割高な管理委託費の適正化にご協力いただいて、親会社の巧妙な戦略で販売価格を上乗せされた分を戻してもらうのが分かりやすい「お返し」と言えるのではないでしょうか。

 


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村上 智史

村上 智史

株式会社マンション管理見直し本舗代表取締役・All About マンション管理士ガイド。早稲田大学卒業後、三井不動産に入社。土地オーナーとの共同事業、ビル賃貸事業、Jリート(不動産投資信託)の立ち上げに従事した後2013年3月退職。2013年5月 『あなたの資産を守る!マンション管理見直しの極意』(自由国民社刊)を上梓。無関心な住人の多いマンション管理組合が潜在的に抱えるリスクを解消し、長期にわたって資産価値を維持できるソリューションを提供することで、「豊かなマンションライフ」の実現を目指しています。

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