修繕積立金の増額改定に苦労したマンションの事情とは!?

神奈川県内にある築27年目のマンション(70戸)では、先日の通常総会で修繕積立金を現状比3倍に大幅値上げすることを決議しました。

 

顧問に就任してから丸1年かかってようやく実現したのですが、どのような事情があったのかをご紹介します。

 

まだ顧問契約の締結以前のこと、総会で修繕積立金の増額改定を議案として上程したところ、賛成の数が管理規約の要件を満たさず、承認に至りませんでした。

 

当時の議案書を確認したところ、驚くことに「特別決議事項」として扱われていたことがわかりました。(区分所有法では、管理規約の改廃や共用部の変更など特に重要な議案は「特別決議事項」とし、「全組合員ならびに議決権総数の各4分の3以上の賛成」が必要と定められています。)

 

ただ、管理費や修繕積立金の改定は、規約で特に定めがない限り「普通決議事項」として扱われます。(普通決議事項の場合、「出席組合員ならびに出席議決権の半数以上の賛成」が成立要件となります)

 

そのため、管理会社にその理由を確認したところ、「管理規約の定め方しだいでは、管理費等の改定も管理規約の改定の一部とみなされるから」という回答でした。

 

ちなみに、管理会社の所管団体にあたるマンション管理業協会や、知り合いのマンション管理士にも問い合わせてみたところ、同様の回答でした。

 

管理規約のどの部分が具体的に問題になるのかと言うと、以下のような条文のケースです。(下線部分に注目してください)

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第25条(管理費等)第2項抜粋

1)管理費及び(2)修繕積立金の金額は別紙1記載の通りであり、各区分所有者の共有持分に応じて算出するものとする。

 

別紙1のタイトル

管理費・修繕積立金(第25条第2項

(※ 住戸別の月額管理費・修繕積立金の一覧表がタイトル下に記載されている)

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つまり、規約本文に「管理費等の額は別紙第○の通りとする」のような記載があると、管理費の金額が記載された別表自体も規約の一部とみなされてしまい、管理費等の改定が規約の変更を伴うと解されるため、総会の特別決議が必要となるというのです。

 

それでは、上述の事例のような管理規約の場合、どのように修正等の対応をすればよいのか?

 

法律の専門家によれば、以下のような対応が有効とされています。

 

1) 特別決議事項の一つとして列挙されている「規約の制定、変更又は廃止」の部分に、(別表記載の管理費・修繕積立金等の改定を除く)と追記する。

2)規約本文が別表とリンクしないように「管理費等の額は別に定める」等の文言に条文を変更する。

3)別表に○○年○○月○○日現在、管理費等一覧表のような表題をつけ、規約と別に管理する。

 

とは言え、個人的にはまだ納得しかねるところがあったので、過去の判例を調べてみたところ、なんと約20年前に控訴審まで闘った訴訟事例があることが分かりました。(下記参照)

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【管理費等請求控訴事件(平14(レ)90号 神戸地裁判決)の概要】

■ 管理組合が、区分所有者に対して管理規約にもとづき増額改定した管理費の支払いを請求した。

■ しかしながら、控訴人である区分所有者は「管理費等の額を変更するには規約改正の手続として特別決議が必要であり、本件決議は無効である」旨を主張した。

■ 裁判所は、「総会において管理費及び修繕積立金の額を決定することは規約の変更に当たらず「特別決議を要しないものと解するのが相当」として控訴を棄却した。

<裁判所が判断した根拠>

・規約変更の議事は,組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上で決するものとしているが,管理費等の額については,規約本文において特別決議の対象事項とはされていないことが認められる。

・規約本文において、規約の変更については管理費等の額の改定とは異なる扱いをしていること

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こうした判例も実際に存在することから、私も予防的な措置として規約を改定するのが望ましいと判断しました。

 

また、このマンションでは別の理由でちょうど管理規約の全面改定を行う準備をしていたため、「渡りに舟」とばかりに、上記の専門家の助言をふまえた条文の修正も加えることとし、昨夏の臨時総会で承認されました。

 

こうして、修繕積立金の増額改定は堂々と普通決議事項として取り扱えるようになったのです。

 

続いて、次に修繕積立金をいくら増額すべきかの検討に入りました。

 

このマンションの長期修繕計画で予定されている修繕見込み額(@544円/m²)に対して、積立金の手元残高(@32円/m²)および毎月の修繕積立金(@98円/m²)を合計しても資金需要全体の3割にも届かず、修繕積立金を現状比で5倍以上(+@414円/m²)に増額が必要になる、という状況でした。<下図参照>

 

 

一方、国交省はマンション購入者や管理組合に向けて、均等積立方式で必要な修繕積立金金額の目安を示すガイドラインを公開しています。

 

【参考】マンションの修繕積立金に関するガイドライン

https://www.mlit.go.jp/common/001080837.pdf

 

本ガイドラインによると、当マンションの場合必要となる修繕積立金は、

「@370円/m²」になりました。(下表参照)

いかに新築当初に設定された徴収額が低かったかが分かります。

現状の財政状況や長期修繕計画を踏まえれば、@400円/㎡を超える水準に増額することが望ましいのは明らかです。

ただ、現状比4倍以上の改定になると、区分所有者の反対がかなり増えることが予想されるため、確実に総会決議をクリアするための「落とし所」を事前に探ることにしました。

そして、全組合員を対象に修繕積立金の改定プランとして3つの案(1案: @300円/㎡、2案:@350円/㎡、3案:@400円/㎡)でアンケートを実施したところ、予想通り「1案:@300円/㎡」がもっとも多数の支持を得ました。

 

これまで時間をかけて検討した成果を無駄にしないために、今回の改定はあまり「冒険」しない方針とし、最低限必要と考えていた「@300円/㎡」への増額改定で総会に上程し、成立に漕ぎ着けることができました。

これをもって問題解決ということにはなりませんが、一歩一歩着実に改善していくしかありません。

<参考記事>

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

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村上 智史

村上 智史

株式会社マンション管理見直し本舗代表取締役・All About マンション管理士ガイド。早稲田大学卒業後、三井不動産に入社。土地オーナーとの共同事業、ビル賃貸事業、Jリート(不動産投資信託)の立ち上げに従事した後2013年3月退職。2013年5月 『あなたの資産を守る!マンション管理見直しの極意』(自由国民社刊)を上梓。無関心な住人の多いマンション管理組合が潜在的に抱えるリスクを解消し、長期にわたって資産価値を維持できるソリューションを提供することで、「豊かなマンションライフ」の実現を目指しています。

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