物語のなかの集合住宅:第4回『めぞん一刻』――管理人という仕事

 

30~40代の男性にとって、「管理人さん」とは『めぞん一刻』のヒロイン音無響子(おとなし・きょうこ)のことに他ならない。試しに「管理人さん」でググってみると、トップには『めぞん一刻』関連のサイトだの、可憐な黒髪女性の画像だのが立ち並ぶ。

ラブコメマンガの金字塔『めぞん一刻』は、一刻館という古びたアパートに管理人としてやってきた音無響子と、一刻館の住人である五代裕作との恋愛模様を軸にした物語だ。そこに、愉快な住人たちの騒動がコメディタッチで味付けされている。

劇中で響子は、五代を含む住人たちに「管理人さん」と呼ばれる。しかし

【管理】ある規準などから外れないよう、全体を統制すること(小学館「大辞泉」より)

……何やらおカタい。灰色を帯びている。反クリエイティブ、非人間的、規律による不自由の象徴――。ネガティブイメージはいくらでも口をついて出てくる。

実際、物語開始当初の響子は物憂げで、住人にあまり心を開いていない。彼女は、結婚後たった半年で夫を亡くした未亡人なのだ。しかも一刻館の大家は死別した夫の父親であり、彼女は着任時に、夫と一緒に飼っていた犬(夫と同じ名前)を連れてくる。響子は「亡き夫の想い出に生きる女」として登場するのだ。“管理”の辞書的なイメージと同じく、灰色を帯びた存在として。

だが、管理人としての仕事を日々こなし、騒がしい住人たちに翻弄され、五代からの健気であたたかい愛情を受けることで、響子は変わっていく。亡き夫の呪縛を断ち切り、新しい人間関係を構築し、自分の人生を力強く歩みはじめる。しかも物語が進むつれ、気高く情に厚い彼女元来の美点は、よりいっそう輝きを増してゆく。

「管理」は英語でManagement、要は「経営」と同列の言葉だ。「経営」とは、組織を“管理・維持”ではなく“成長”に導く行為である。日本語の灰色的な語義からはずいぶん異なる、かなり前向きな意味を持っているのだ。自分にまとわりついた過去を維持するのではなく、自分を成長させた響子にも、ピッタリ当てはまる解釈ではないだろうか。

また、マネジメントと聞いて真っ先に浮かぶのは、名著『マネジメント』を記した(あるいはベストセラー『もしドラ』でおなじみの)ピーター・ドラッカーだが、彼はマネジメントという行為を7つの条件で定義した。その第一条件がこれだ。

「マネジメントとは、人の強みを発揮させ、弱みを無意味にすることである。つまりそれは、人にかかわることである」

なんだか「管理人さん」という呼び名のイメージが、今までとはまるで変わってしまいそうだ。

[Photo by Dennis Amith

 


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稲田 豊史
編集者/ライター。キネマ旬報社でDVD雑誌編集長、書籍編集者を経てフリー。主な分野は映画、お笑い、ポップカルチャー。編集担当書籍に「団地団 ~ベランダから見渡す映画論~」「人生で大切なことは全部フジテレビで学んだ」「全方位型お笑いマガジン コメ旬」「『おもしろい』映画と『つまらない』映画の見分け方」「『ぴあ』の時代」「成熟という檻 『魔法少女まどか☆マギカ』論」「特撮ヒーロー番組のつくりかた」などがある。URL

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