マンションの屋上防水改修工事に「25年」の長期保証が付帯する理由
2024/12/06
5月10日付の朝日新聞に、「マンション解体、いばら道」という記事が掲載されていました。
本記事を要約すると、以下のとおりです。
■ 新潟県湯沢町で、区分所有者全員合意にもとづき、老朽化したリゾートマンションが解体の後更地で売却され、管理組合が解散した。
■ 解体されたのは、築44年・30戸のマンションで、苗場のリゾートマンションの草分け的な存在だった。
■ しかし、バブル崩壊後に利用者が激減。その後、管理費や修繕積立金の滞納も相次ぎ、修繕もままならなくなった。
■ 廃虚になるのを避けようと、2014年に区分所有者の一人が動き、他の区分所有者を登記簿で調べ、アンケートを実施して意向を聞いた。
■ アンケート結果を集計した結果、マンションの利用希望者は皆無だったことから、解体の方針が決まり、建物を閉鎖した。
■ ただし、マンションを解体して更地を売却するには、所有者全員の合意が必要にもかかわらず、区分所有者のうち4名の連絡先が不明のため、探して合意を取り付ける必要があった。
■ 管理会社の部長は、周辺の「聞き込み」から始め、不明の所有者を突き止めた。解体に反対した所有者には、「このまま放置して何か事故が起きたら、責任を問われかねない」などと説得し、解体の合意が得られた。
■ その後17年の組合総会で全員合意による解体を決議。修繕積立金残高を使って解体し、昨年6月に更地となった。
■ 滞納管理費の一部を回収できたこともあり、追加負担なしで処分できたが、動き出してから5年がかかった。
■ 今回のケースで売却が実現した背景には、修繕積立金が使われずにたまっていたため、それを解体の資金を確保できたことがある。それでも5年の歳月と、関係者の膨大な手間を要した。マンションの「終活」がいかに困難かを示した事例である。■ 国土交通省の統計では、分譲マンションの総戸数は17年末時点で約644万戸ある。20年後には、築40年超の老朽物件が約350万戸に増えると見込まれる。
■ 建替えには見切りをつけてマンションを解体しようとしても、そこには「所有者の合意」という高いハードルが待ち受ける。修繕積立金が十分にプールされていなければ、修繕も解体もできないまま、廃虚となって放置されるリスクが高まる。
■ 一部の専門家からは、「少子化が進む日本では今後、マンション解体を前提にすべきで、更地売却の場合でも『5分の4』の合意を原則とし、解体費用の積み立てを義務化すべき」との意見もある。
マンションの建替えを決議するには、区分所有法で「総会決議で全所有者の5分の4以上の賛成が必要」とされています。
それでは、
建物解体⇒敷地売却には、なぜ所有者「全員」の賛成が必要か、ご存知ですか?
敷地売却は、区分所有法ではなく民法の条文にもとづくからです。
分譲マンション全体は、各区分所有者による「共有物」ですね。
民法では、共有物を処分する際には共有者全員の合意が必要です。
しかし、分譲マンションの管理・運営において常に全員合意を条件とするのはあまりにも非現実的です。
そのため、「民法の特別法」として区分所有法を定め、原則として過半数の合意で足りるようにしたわけです。
ただし、管理規約の改正や共用部の大きな変更などの重要案件は「特別決議事項」として全体の4分の3以上、そして建替えについては全体の5分の4以上の賛成を要すると別途定めました。
しかし、マンションを解体したら、おのずと区分所有権も消滅し、敷地の共有持分だけになってしまいます。
そのため敷地売却に際しては、民法の原則どおり「共有者全員の合意」が求められる、というわけです。
しかし、冒頭の新聞記事にも紹介されているように、老朽化マンションの建替え事例は極めてレアケースとなっています。
その最大の理由は、やはり建替え資金の問題です。
建替えを実現するには、既存建物の解体費、居住者の移転費用、仮移転中の家賃、新築建物の建設費を工面する必要があります。
幸運にも、もし既存建物に余剰容積があった場合には、「空中権」をデベロッパーに売却することで建替え資金をねん出するという「マジック」も活用できますが、通常は各人が1千万円単位の費用を負担しなくてはなりません。
当然ながら、区分所有者によって経済状況が異なるため、全体の8割の合意を取り付けるのは容易ではありません。
とは言え、老朽化した建物に永久に住み続けられるわけではありません。
資金的な問題で建替えが困難となれば、(建物解体費は何とか捻出したうえで)敷地の売却で組合を解散するプランも選択肢に入れたいところです。
ところが、敷地売却は、上記のとおり民法の定めで「全員の合意」が求められるため、さらにハードルが上がってしまいます。
その解決策として、さすがに耐震性が足りないマンションや、大規模に被災したマンションを対象とする「マンション敷地売却制度」(2014年)が施行され、全体の5分の4以上の合意があれば解体・売却できるようにはなりましたが、これでは「焼け石に水」です。
老朽化マンションの将来は完全に「袋小路」にはまり込んでしまっていると言えます。
今後少子高齢化が進む中、近い将来マンションでも所有者不明や相続放棄などの住戸が出現することは間違いないでしょう。
しかしながら、わが国では不動産登記も義務化されていないため、連絡が取れなくなった場合に本当の所有者を捜索するのはとても厄介な仕事です。
・管理組合の設立は法的義務だが、設立しなくとも罰則なし。
・区分所有者の管理は、登記制度が義務化されていないため非常に心許ない。
・管理者の選任、管理規約や長期修繕計画の作成は、管理組合にお任せ。
・計画的に修繕が実施されているかどうかも、管理組合にお任せ。
こうしたある意味「放置プレイ」の環境のもとにありながら、建替えや敷地売却を実現するハードルだけやけに高いのは、あまりにも性善説に偏っていて、著しく制度的なバランスを欠いているように思うのです。
<参考記事>
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