マンションの「金食い虫」=「機械式駐車場」とうまく付き合う方法はあるか?

ダイヤモンドオンラインで、「マンションの金食い虫「機械式駐車場」とうまくつき合う方法とは」と題した記事が掲載されていました。

 

diamond.jp

本記事の要約は以下の通りです。

■ 機械式駐車場は、「附置義務」との兼ね合いもあり、必要がないからといって簡単に取り壊せるものでもなく、管理費や修繕積立金に重い負担をかけ続けている。

■ 機械式駐車場にかかる費用を見直す一つの方法として、「リース+フルメンテナンス契約」というものがある。

■機械式駐車場のメンテナンスには、主にフルメンテナンスとPOGという2種類の保守契約がある。フルメンテナンス契約とは、点検、調整や部品交換など必要なメンテナンスを保守料金の範囲内で行う方式だ。高額部品の取り替えも月々の保守料金内に含んでいるため、部品交換のための予算を特別に取る必要はない。ただし、保守料金はその分割高な設定になる。

■ もう1つのPOG契約とは「パーツ・オイル・グリース契約」の略称で、機器や付属備品の点検、清掃、給油、調整などを契約する方式である。要するに基本的な点検だけを委託するイメージで、1回のメンテナンスにかかる費用は抑えられるが、部品交換や修理工事などを行う場合には別途費用が発生することになる。

■ どちらがよいとは一概には言えないが、機械式駐車場の場合はPOG契約が一般的で、フルメンテナンス契約はほとんど見かけない。

■また、 長期修繕計画を見ると、耐用年数を過ぎた機械式駐車装置の入れ替えが莫大な費用とともに予定されている。さらに、機械の経年劣化に伴い部品交換や修理などにかかる費用がかさんでくる。

■ 昨今、若者の車離れや車を手放す高齢者の増加などにより、駐車場利用率が低下していることも、機械式駐車場の維持管理に暗い影を落としている。ひどい状況のマンションだと、100パレットある機械式駐車場のうち、2割しか利用者がいない機械式駐車場もある。

■そのような場合、設備更新にかかる費用を、修繕積立金を取り崩して充てる決議を通すのは簡単ではない。機械式駐車場を利用していない8割の組合員にしてみれば、「使ってもいない設備に、どうして自分たちが金を出さなければならないのか」と思うのも無理もない。

■「それなら、使っていない機械式駐車場を取り壊してしまえばいい」という考えも出てきそうだが、「附置義務」制度により、マンションには一定数の駐車場を確保することが求められる。

■ 敷地面積が十分取れないマンションで、附置義務を課して必要台数を確保するために考え出されたのが機械式駐車場である。だから、稼働率が低いからといって、簡単に取り壊すことはできないというジレンマが生じる。

■ 今後問題化することが明らかな機械式駐車場に、いつまでも高額な維持管理費や機械装置の更新費用を負担し続けるしかないのか?そこで提案したいアイディアがある。

■ 機械式駐車場にかかる費用を駐車場利用者=受益者が負担するシステムにするのだ。例えば、多額の費用がかかる機械式駐車場の更新工事に対して、その費用をマンションの積立金会計を取り崩して捻出するのではなく、受益者負担によるリース+フルメンテナンスにより、一般会計から拠出する。

■ たとえば、駐車場利用料が1台あたり月額15,000円と設定した場合、受益者が支払う15,000円は一般会計に入るが、月額1万円で機械式駐車場をリース+フルメンテナンス契約にした場合、一般会計には5000円が残る。要するに、両者の差額分が、一般会計の収入として積み立てられていくわけだ。

■ そして、いざ機械式駐車場の更新工事を実施するとなった場合、これまでは修繕積立金から工事費用を拠出していたものを、一般会計にプールされてきた駐車場利用料でまかなうことができる。

■ この方法なら、組合員全員で更新費用を負担するのではなく、受益者による負担で支払うことになるため、機械式駐車場を利用していない組合員に対しても、機械式駐車装置の入れ替えに対する説明責任を果たすことができ、総会での合意形成も得やすくなる。

■ また、フルメンテナンス契約にすることで、毎年提案される修繕についての長時間かつ不毛な議論から解放されるだけでなく、機械式駐車場の安全性と利便性もはかれるうえ、突発的な修理も不要になる。

■ さらに、長期修繕計画からも費用負担の比重が大きかった機械式駐車場更新の項目が削除され、格段に身軽になれる。

■ このところ、このリース+フルメンテナンス契約のプログラムを提供する会社が増え、中には共済方式でリーズナブルにプログラムを利用できる団体も出てくるなど、ようやく競争原理が働く気運になってきた。

■  機械式駐車場を自前で維持していくか、リースにするか、あるいはPOG契約で必要な修理や部品交換を適宜施していくか、フルメンテナンス契約で保守を一括で任せるか、などというように選択肢が増えて、自分たちのマンションに合った方法を選ぶことができるようになりつつある。

 

先日、顧問先マンションの通常総会で、足掛け3年かけて検討してきた機械式駐車場の撤去・平面化工事が、特別決議事項の要件(区分所有者全体の4分の3以上の賛成)を満たして無事承認されました。

 

このマンションでは、

3段ピット式の設備が3基、合計9台分のパレットがありますが、現状稼働しているのは2台のみです。

 

この設備全体を撤去・平面化すると、3台の平面式駐車場に一新されることになります。

 

このマンションは築20年を超えてすでに設備の経年劣化が進行しており、保守会社から300万円にのぼる部品交換等の見積提案を受けています。

 

長期修繕計画においても、今後30年で1,500万円もの修繕費が見込まれています。

 

また、事前に実施した居住者向けアンケートでは、今後解約する利用者が見られる一方で、新たに利用しようとする居住者はありませんでした。

 

そのため、駐車設備のほとんどが「遊休化」状態にあると判断せざるを得ず、今回の決断に至ったわけです。

 

しかしながら、総会での議案上程に至るまでには理事会において以下のプロセスを経てきたこともあり、ここまでの道のりは長いものになりました。

・住民アンケートによる需要動向調査

・外部賃貸の可能性・リスクの検討

・平面化の工事方法の検討(埋め戻しか、鋼製板の敷き込みか)

・発注先業者の選定(相見積りの取得や施工業者のプレゼン)

 

現在の利用者の中には、車上荒らし対策として地下のパレットに車両を停めた方が安全という考えから、平面化には反対の意思を表明される方もいらっしゃいました。

 

ただ、組合全体の財政健全化という観点から見れば、今後も収益が上がらない可能性の高い設備にお金をかけて更新することを回避したのは「正解」だと思います。

 

また、このマンションでは、修繕積立金を標準以上の水準まですでに増額改定していますが、工事費相場や消費税の上昇を考えると余計な支出はなるべく節約したいところです。

 

今回の撤去・平面化工事によって、イニシャルで数百万円の出費が伴いますが、将来の設備更新費がなくなるうえ、年間10万円の保守点検費も節約できることになります。

 

さて、今回紹介した冒頭の記事ですが、ネットで検索してみたところ、確かに「リース+フルメンテナンス契約」を提案している企業がありました。

 

www.asap-net.co.jp

しかしながら、以下のとおりいくつか留意すべき点があります。

1)既存設備はリースの対象にならないため、既設の設備を一度リニューアルすることが前提条件です。(POG契約でメンテナンス中の既存設備を途中でフルメンテナンス契約にすることは、エレベーターと同様に原則としてできません。)

 

2)駐車場の稼働率が現状すでに芳しくない場合や、(今は良好でも)将来悪化した場合には、駐車場の収支が赤字に陥ってしまうため、受益者の負担が現状の駐車料金以上に増えるリスクがあります。

 

3)「リース+フルメンテナンス契約」は、毎月負担が平準化されるというメリットはあるかもしれませんが、費用に金利分が上乗せされるため、購入と比べて確実に割高になります。(防犯カメラなどと同様です)

 

4)なお、設備撤去の際の障壁になると指摘されている「附置義務台数」については条例等で定められているため、稼働率低迷に伴う設備撤去を自治体に相談しても公式に承諾を得ることは難しいのは確かですが、管理組合の事情等に鑑みて「黙認」してもらえる可能性もあります。

 

このように、機械式駐車場に関する問題の解決には、「ウルトラC」と呼べるものはなく、個別マンションの事情に鑑みて時間をかけて泥臭く、かつ丁寧にコンセンサスを得ていく努力をするほかないと思います。

 

<参考記事>

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

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村上 智史

村上 智史

株式会社マンション管理見直し本舗代表取締役・All About マンション管理士ガイド。早稲田大学卒業後、三井不動産に入社。土地オーナーとの共同事業、ビル賃貸事業、Jリート(不動産投資信託)の立ち上げに従事した後2013年3月退職。2013年5月 『あなたの資産を守る!マンション管理見直しの極意』(自由国民社刊)を上梓。無関心な住人の多いマンション管理組合が潜在的に抱えるリスクを解消し、長期にわたって資産価値を維持できるソリューションを提供することで、「豊かなマンションライフ」の実現を目指しています。

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