4月30日付けの日本経済新聞に、「マンション総会もオンライン 出席率向上、勤務先からも 国も後押し」と題した記事が掲載されていました。
本記事の要約は以下の通りです。
■ 管理組合の総会や理事会をオンラインで開く動きが広がっている。コロナ対策などの観点から国もこうした試みを認める方針を示して後押ししている。
■ 4月初旬、横浜市の某マンションの一室で定例の理事会が開かれた。目を引くのは室内スクリーンに映った画面。この日、出席した11人の理事らのうち、3人はウェブ会議「Zoom」を使い、画面越しにマンションの自室などから参加した。
■ このマンションでは、2020年はコロナ禍で理事会の出席率が下がったが、Zoomでの参加を認めたところ、出席率は向上したとのこと。
■ コロナ下で管理組合が特に苦慮したのが総会や理事会だ。2020年の総会は最低限の人が出席し、ほかの人には議決権行使書を出してもらった組合が多かったようだ。
■ 総会の出席者が少ないと後から不満が出る懸念もあるうえ、重要議題が先送りされやすく、後々管理や修繕に問題が生じかねない。
■ 2021年4月、国土交通省はマンション管理規約の標準モデルの改正案を公表し、今夏にも改正される見込み。新たに「WEB会議システム」という文言を加え、これを使う場合の招集や議決についてのルールや注意点も記載した。
■ 以前から区分所有法ではオンライン開催を禁じてはいないが、今回の改正案はIT(情報技術)を活用した総会などの実施は可能と明確化した。
■ 投資目的などで実際には住んでいない所有者らも含め、総会や理事会への出席を容易にするなど利点が多いため、オンライン化を目指す組合は飛躍的に増えるのではないかと予想する向きもある。
■理事会より規模が大きい総会では、区分所有者に納得してもらう工夫が必要だ。所有者の間でITに関する知識に差異がある可能性もある。総会は現実の会場とオンラインの併用のほうが理解は得やすいだろう。
■ ITに詳しくない人をフォローするのに加え、どうしてもなじめない人にはリアルな参加の道を残す配慮も必要だ。
■ 同じマンション内の会議でも少人数のみが参加し、日常的な案件も含む業務などを決める理事会に比べて、総会は参加者も多く、重要事項を決める場なのでルールは厳格だ。
■ オンライン総会は「即時性、双方向性」などの条件を満たせば通常総会と同じ扱いとする一方、「オンライン参加者が議決権行使はできず、傍聴だけなら出席者に含めない」とする。総会の開催要件(議決権総数の半数以上が出席が必要)との兼ね合いもあるので、注意が必要だ。
私の顧問先マンションでも、コロナ禍で会場として利用している自治会館や地域の集会所が閉鎖されたことをきっかけに、「Zoom」を利用した理事会のリモート開催が徐々に増え、今やほとんどの組合が頻繁に利用している状況です。
その要因としては、以下のとおり大きく2つあると思います。
・スマホやPCの普及によって、ほとんどの人がいまやWi-Fiの契約をするなど、ネット接続環境が整いつつあること。
・「Zoom」のコストパフォーマンスが高い上、使い勝手もよいこと。(有償でも月2千円と負担が軽く、めったに画面がフリーズしないので快適。資料も画面共有機能を使えるので、ペーパーレス化にも資する)
そのため、その後顧問先のマンションでは、管理規約に理事会のリモート開催を公式に容認する改正案を総会に議案上程し、特に反対意見もなく承認・可決しています。
一方、今夏の施行が予定される国交省による標準管理規約の改正については、これまで集会による開催を前提としていた組合総会についても、即時性・双方向性を有する「WEB会議システム」の活用を通じたオンライン開催を正式に承認するという点が最大の目玉になっています。
本記事にも紹介されているように、少数の顔見知りの役員間(せいぜい10数人程度)で開催する理事会と違って、区分所有者全員が参加対象になる総会(数百人に及ぶケースもある)の場合にはいくつか留意すべき点として大きく以下の3つが挙げられます。
(1)高齢者など、ネット接続ができない方やオンライン会議に不慣れな区分所有者への配慮をどうするか?
(2)区分所有者、あるいは代理人(委任状の提出による)の本人なりすましのリスクを回避するための確認をどうするのか?
(3)オンライン総会開催中の通信障害等が発生した場合の対応をどうするか?
(1)については、パソコンやネット接続ツール等の必要機器を所有していなかったり、持っていても機器の操作ができないといった区分所有者が1人でもいる場合は、少なくとも「リアル総会」(=これまでの集会による総会)との併用で「オンライン総会」を開催する必要があるでしょう。(下図参照)
一方、(2)については、本人確認方法として、「リアル総会」では会場の受付で部屋番号と氏名を申告してもらったり、区分所有者の住所に送付された「招集通知」を提示してもらうのが一般的です。
そのため、「オンライン総会」でも「リアル総会」と同様の取扱いを取る方法が考えられめ、WEBの画面を通じて適切な本人確認の方法(招集通知や身分証明書の提示など)を選択し、実施することが望ましいでしょう。
最後の(3)については、通信障害等の発生段階及び規模にもよりますが、通信障害等によってオンライン出席者が審議又は決議に参加不可となった場合には、決議の効力自体に疑義が生じる可能性があるので、そのような場合には改めて総会を開催する必要があります。
遠隔地に居住していたり、多忙などの事情で総会に参加しにくい区分所有者の参加率を向上させるという効果が期待できることからオンライン開催を認める管理組合は今後増えることは間違いないでしょう。
ただ、現実的には「オンライン+リアル併用型の開催」が主流になっていくと思います。
最後に、もう一つ注意すべき点があります。
改正標準管理規約が施行されても、あなたのマンションの管理規約が自動的にアップデートされるわけではなく、改正後の標準規約をどこまで取り入れるかは各組合の意思決定に委ねられています。
また、規約の変更は区分所有法上、総会の「特別決議事項」に該当するため、区分所有者(の組合員数および議決権総数)全体の4分の3以上の賛成が必要です。
まずは、組合の執行機関である理事会で検討し、総会に改正案の議案を上程する手続きが求められることをご承知おきください。
改正標準管理規約の詳細については、下記記事をご参照ください。
<参考記事>
村上 智史
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