7月14日付の読売新聞に、「老朽マンションの建て替え促進策導入へ…階数増やせる特例で「新陳代謝」進める」と題した記事が掲載されていました。
本記事の要約は以下の通りです。
■ マンション建替えには区分所有者の8割以上の合意が必要だが、建て替えの費用負担がネックとなって合意できず、そのまま老朽化が進むケースが後を絶たない。しかし、老朽化が放置されたままでは、壁面の崩落や廃虚化に伴う事故、治安悪化を招くことが懸念される。
■ 国土交通省は、老朽マンションの増加に歯止めをかけるため、マンションの建て替え促進策を導入し、関係する省令・告示を年内に改正する予定。
■ 具体的には、一定の要件を満たすマンションについては、建替えの際に容積緩和の優遇が受けられるようにする。
■ 現行法では、建替えに際して容積を増やせるのは、旧耐震基準で建設された「耐震不足」の物件に限られている。そこで、 国交省は新たに「外壁の劣化」「防火体制の不足」「配管設備の劣化」「バリアフリー未対応」の4要件を加えるとともに、いずれか一つに該当すれば容積率を緩和する特例を受けられるようにする。
■ 各要件のうち「外壁の劣化」は、ひび割れやはがれが一定以上あることを、「防火体制の不足」は、非常用進入口の未設置などを指す。
■ 「配管設備の劣化」は天井裏の排水管で2か所以上の漏水、「バリアフリー未対応」は3階建て以上の物件でエレベーターがないほか、各戸玄関の幅が75センチ未満などが該当する。 これらの要件のチェックは、いずれも1級建築士などの有資格者が調査、判断する。
■ 増床の割合はマンションの立地にもよるが、10階建ての老朽マンションを12、13階建てに建て替えることができるイメージとなる。
■ 建替えによって増える床は、管理組合がデベロッパーなどに売却し、建替えの資金に充当することで、管理組合も建替えの合意形成をしやすくなると見込む。
分譲マンションのストック約600万戸のうち、旧耐震基準に基づいて建設されたものは約106万戸にのぼりますが、これまでの建替えの実績は累計約1万4,000戸(2013年4月時点)にとどまっています。
そのため国は、老朽化マンションの建替え等を促進するため、老朽建物を解体のうえ敷地売却によって清算することができるマンション敷地売却制度を創設するとともに、容積率の緩和特例を創設してきました。
(下図参照)
しかしながら、その後も老朽化マンションの建替えのペースは依然として緩慢な状況であるため、特に建替えの合意のネックとなっている資金問題解決に資する施策として、容積緩和を受けられる条件の見直しを検討しているわけです。
<マンション建て替えの実施状況 国交省出典 >
一口に「建替え用の資金」と言っても、それは既存建物の解体や再建築のための費用だけにとどまりません。
建替えに際しては、建築や法律に関する専門知識を有するコンサルタント等の関与が不可欠で、事前の検討段階でそのための費用がまず発生します。
また、仮に建替えの実施がうまく決まったとしても、工事期間中の仮住まいの確保や往復のための移転費も必要になります。
そのため、戸あたりで1千万円以上の資金が別途必要とされています。
こうした費用は、当然ながら各区分所有者が負担することになりますが、各区分所有者の経済状況や家族構成、ライフステージ、年齢等は多様であるうえ、コストの負担能力には個人間で格差があるのが実情です。
特に、老朽化マンションに多く居住する高齢者は、経済的負担が大きい建替えに消極的にならざるを得ない理由のひとつにもなっています。
こうした資金問題の解決に資する施策の一つとして、耐震性が不足するマンションについては、建替えの際に容積率の緩和を受けられるようにしました。
いわゆる「等価交換方式」によって、管理組合が容積ボーナス分(専有床)をデベロッパーに売却することによって得られる資金を建替え費用の一部に充当することで、区分所有者の経済的負担を軽減できるからです。
今回の見直しは、「耐震性不足」以外にも容積の緩和を受けられる条件を増やすことで事実上その要件を緩和するのが狙いです。
まだ、本記事の通りの改正になるかは不明ですが、「バリアフリー未対応」の要件として挙がっている「3階以上の建物でエレベーターが未設置」に該当する事例は旧公団の分譲マンション等に多く見られるので、有効なインセンティブになることが期待できます。
また、「省令(施行規則)の改正」なら国会での承認も不要のため、年内の施行も可能でしょう。
<参考記事>
村上 智史
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