マンション管理組合が抱える「相続資産の承継リスク」

7月3日付けの「文春オンライン」に、「相続人が見つからない! 老朽化マンションの悲鳴」という記事が掲載されていました。

 

bunshun.jp

この記事の要約は以下の通りです。

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■ 国交省による2013年度の調査結果によると、東京都内のマンションのうち、70歳以上が世帯主である住戸が2割、50歳以上が7割を占めるという。今後多くのマンション住戸が相続の対象となってくることが容易に想像される。

■ かつては親が子に残す財産で最も価値の高いもののひとつが不動産だった。ところが最近は親の自宅を相続しても自身で「住む」というケースは少ない。また、現在空き家は東京都内だけで60万戸もあり、家賃収入を得るのも容易ではない。

■ 親の残した不動産がそれほどの価値もないことに気付き始めた相続人たちは、不動産を敬遠して相続人同士で押し付けあうような場面も増えているという。

■ こうした状況の中、マンションを相続したことを管理組合に連絡しないケースも増えている。住戸を無理やり相続させられた相続人は、その事実を告げずに放置し、その結果として管理費・修繕積立金が滞納となる。

■ 相続人が確認できれば、管理組合は当然にして相続人に対して管理費・修繕積立金の請求を行うが、相続人としての届け出が行われないためどこに請求してよいのかわからなくなるケースが発生している。

■ 相続人を見つけ出しても、外国住まいであったり、複数の相続人が存在するためになかなか思うように徴収できないケースも増えている。

■ 最終的にはマンション住戸を差し押さえたうえで、競売等にかけて滞納分を回収していくというのが法律上の手続きとなるが、立地や築年数、設備の状況などによっては全く買い手がつかないマンションも出始めている。また、競売によって滞納金が回収できるという保証はどこにもない。

■ 管理費の滞納が300万円、住戸内の後片付け費用で100万円、リニューアル費用で300万円、管理組合で計700万円かけて売却に出したものの、売れない。最終的に売却できた金額は400万円だったなどという事例も珍しい事例ではなくなっている。差し押さえるための手続き、弁護士費用などを支払うにも組合員から集めた管理費しか元手がない中、管理組合も手が出しにくいというのが現状だ。

■ さらにやっかなのが、相続人がいないマンション住戸の増加だ。相続人が存在しない、または相続人が全員相続を放棄した場合、マンション管理組合は家庭裁判所等が選定する相続財産管理人と対峙することとなる。つまり管理費・修繕積立金等の請求を相続財産管理人に行うこととなる。

■ 管理費の滞納が多いマンションほど老朽化が激しく、流通性に欠ける物件が多くなる。そうした住戸ほど誰も相続したがらない。相続を放棄する、相続をしても住戸を放置し、管理費・修繕積立金の支払いを免れ続ける。売却しても債務全額の回収には程遠く、そもそも売却すら叶わない、こんな物件が今後急速に増加してくる可能性が高くなっている。

・・・・

分譲マンションが相続放棄されることで、管理組合が管理費等の長期滞納リスクに直面するリスクについては、昨秋の朝日新聞の記事でも取り上げられていました。

 

<参考記事>

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

また、わが国の場合、相続された不動産の所有者が名義変更となっても登記手続きを行うことが法的に義務付けられているわけではありません

 

そのため、所有者不明の不動産が全国的に急増し、その面積は今や「九州」の広さに相当すると言われています。

 

<参考記事>

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

したがって、管理組合としてはマンション内に相続が発生した際に、管理費滞納のリスクに直面する可能性があるだけでなく、所有者不明のためにそれを請求する手立てが見つからないという厄介な問題も抱え込む可能性もあるということです。

 

特に現在単身世帯で、相続人もいないという住戸は最もリスクが高いわけです。

 

分譲マンションの場合、管理費の徴収は銀行口座からの自動振替えによる方法を取っているのが一般的ですから、残高不足で引き落としができなくなるまで相続の発生に気づかないケースが多いと思われます。

 

本人が死亡している場合、管理会社は督促しても連絡が付かないため当然回収が進まないまますぐに半年くらい経過してしまうでしょう。

 

相続が発生しているにもかかわらず、(相続放棄のケースも含めて)これを承継する相続人がいないことになったら、さらに大変です。

 

滞納債権があるからといって、管理組合が勝手にその住戸を処分するわけにはいきません。

 

家庭裁判所に「相続財産管理人」の選任を申請し、適法に資産を処分してもらうための手続をとる必要が出てきます

 

その際、100万円程度の「予納金」が必要ですし、相続人がいない(あるいは相続放棄がなされた)事実として戸籍謄本などを収集しなくてはなりません

 

そんな仕事はとても自力ではできないでしょうから、弁護士を起用するなどで管理組合としては別途費用の負担が必要になってきます。

 

とは言え、相続財産管理人が選任され、そのマンションが無事処分されて相応の資金が回収できればまだ「御の字」でしょう。

 

そのマンションが老朽化していたり立地条件の劣る物件の場合だと、二束三文の値段にしかならなかったり、酷い場合には買い手が一向につかないということも考えられます。

 

こうした場合は、裁判所に納めた予納金や弁護士費用が回収できないだけでなく、滞納管理費も毎月増え続けるという最悪の状況も覚悟しなくてはならないのです。

 

こうしたリスクを考慮して、管理組合としては少なくとも日常的に以下のような対策をとっておくべきでしょう。

 

(1)区分所有者名簿の定期的更新を行う

緊急連絡先も含めたメンテナンスが必要です。

また、区分所有者本人の年齢や家族構成を把握しておきたいところです。

 

(2)滞納が生じた場合は早期に状況把握を行う

管理会社任せにせずに、滞納が2ヶ月以上になった段階で本人の居住状況や滞納理由を早めに把握することが大切です。

 


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村上 智史

村上 智史

株式会社マンション管理見直し本舗代表取締役・All About マンション管理士ガイド。早稲田大学卒業後、三井不動産に入社。土地オーナーとの共同事業、ビル賃貸事業、Jリート(不動産投資信託)の立ち上げに従事した後2013年3月退職。2013年5月 『あなたの資産を守る!マンション管理見直しの極意』(自由国民社刊)を上梓。無関心な住人の多いマンション管理組合が潜在的に抱えるリスクを解消し、長期にわたって資産価値を維持できるソリューションを提供することで、「豊かなマンションライフ」の実現を目指しています。

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