マンション管理組合に管理会社のリプレイスを勧めたワケ
2025/02/10
5月1日付けの日本経済新聞に「マンションの修繕決議、要件緩和」という記事が掲載されていました。
本記事の要約は以下のとおりです。
■ 政府は分譲マンションの修繕方針などを決める住人集会について出席者の過半数の賛成で決議できるよう法改正を検討する。
■ 現在は欠席を反対と見なすため賛成不足で決議できない場合がある。増加する老朽マンションの改修を進めやすくする。
■ 法相の諮問機関である法制審議会で議論し、2024年度にも区分所有法の改正を目指す。
■ 国交省によると、ほぼ全てのマンションは建設から30年たつまでに少なくとも1回は大規模修繕をする。築30年以上の分譲マンションは21年末時点で全国に249万戸ある。20年後にはおよそ2.4倍の588万戸になる見通しである。
■ 適切な時期に修繕しないとマンションの価値が落ち、所有者離れにつながる。老朽化を放置すれば外壁がはがれるような事故も起きかねない。修繕決議の要件を緩和することで改修を後押しする。
そして、本記事に添付されていたのが下の図です。
(出典 日本経済新聞)
本記事は、朝刊一面の扱いとなっていましたが、残念なことに
使われている用語の選択に「アラ」が目立ちます。
まずは、「住人集会」という表現です。
分譲マンションの場合、区分所有者全員で管理組合を設立し、年度の決算や来期の予算案、そして共用部の修繕工事などの承認を得るために総会を開催のうえ意思決定を行います。
たしかに区分所有法上では「集会」と表現していますが、業界的には一般的な用語である「組合総会」とした方が適切です。
また、「住人」という表現も正確ではありません。
ただ、ワンルームなど投資マンションを思い浮かべればわかると思いますが、
居住者には賃借人もいるため「区分所有者=住人」とは限りません。
さらに、誤解を招きやすいのが「欠席を反対とみなす」という表現です。
標準的な管理規約では、事前に委任状や議決権行使書を提出すれば「みなし出席者」と扱われるので、欠席=反対とはなりません。
さらに、指摘したいのは、
区分所有法と管理規約の関係に対する記者の理解が不十分と思われることです。
実際の管理組合は、マンションごとに内部ルールとして「管理規約」を定めたうえで運営しています。
そして各マンションの管理規約は、区分所有法の認める範囲内で「別途定める」ことができます。
( ただし、管理規約の変更、マンションの建替えといった「特別決議事項」については、区分所有法の定めを管理規約で緩和することはできません。)
今回記事の目玉になっている共用部の修繕は、現行の区分所有法では
確かに原則は「区分所有者の半数以上の賛成が必要」と定められています。
(下記参照)
【区分所有法 第39条 第1項 】
集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。
しかしながら、ほとんどのマンション管理組合で採用されている国交省の「標準管理規約」では以下のように定められています。
【標準管理規約 第47条(総会の会議及び議事)】
総会の会議は、前条第1項に定める議決権総数の半数以上を有する組合員が出席しなければならない。
2 総会の議事は、出席組合員の議決権の過半数で決する。
<中略>
6 前5項の場合において、書面又は代理人によって議決権を行使する者は、出席組合員とみなす。
つまり、標準規約では、総会の開催要件(区分所有者の半数以上の出席:委任状等の提出も含む)を満たした上で、出席者の議決権の過半数の賛成が得られれば可決します。
したがって、今回の記事で取り上げられた「修繕決議の要件緩和」は、区分所有法の原則を国交省の標準管理規約に沿った内容になるだけです。
そのため、本記事のとおり法改正がなされたとしても、ほとんどの管理組合の運営実態に影響はないと考えられます。
むしろ、区分所有法の改正で注目すべきは、建替えや規約変更における「特別決議事項に対する承認要件の緩和」です。
特別決議事項については、規約で別途承認要件を定めることは許されず、区分所有法の定めのとおり、区分所有者全体(組合員総数、議決権総数)の4分の3以上の賛成が必要です。
特に建替えの場合、「5分の4以上」とさらにハードルが上がるため、委任状も議決権行使書も提出しない棄権者がいると可決が困難になります。
そのため、少なくとも組合との連絡がつかない所有者不明の住戸は、総議決権数の対象から除外してはどうかという議論がなされているのです。(下記記事参照)
<参考記事>
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