マンション修繕積立金の増額幅を大幅に圧縮できたワケ
2025/01/06
10月13日付の日経新聞に、「マンション管理費滞納どう対応? 法的措置を粛々と」という記事が掲載されていました。
「自宅マンションで長期間にわたって管理費を滞納している住民に対してどのような対策をすればよいか?」という質問に対して、弁護士が回答しています。
管理組合としてぜひ知っておきたい重要な点も含まれているので、ご紹介します。
■ 多くの管理組合では、以下のように滞納への対応ルールを定めている。(1)滞納が3ヶ月以内
文書・電話・訪問等による督促を行う
(2)滞納が1年程度
理事長が滞納者に対して支払督促や少額訴訟等の法的措置を講じる
(3)滞納が1年超
弁護士に依頼して通常訴訟を提起する
■ 上記のような対応に加え、滞納者に対してペナルティーを与えるケースも見受けられる。例えば、一定期間以上管理費を滞納した区分所有者の氏名をマンションの掲示板に張り出すようなケースがある。しかし、これは「自力救済禁止の原則」から問題があるうえ、氏名の公表は名誉毀損行為として不法行為が成立する可能性もある。
■ その他にも、電気・ガス・水道を管理組合で一括して契約しているマンションの場合は、滞納者に対する電気・ガス・水道の供給を停止したという事案もある。しかし、このような供給停止は、滞納者に対する不法行為に当たるとして管理組合に損害賠償の支払いを命じた判例もある。
■ このように、管理費滞納者に対してペナルティーを与えることは、そのこと自体が不法行為となってしまう可能性があるため、支払督促や訴訟の提起といった法的措置を講じて粛々と対応すべきだ。
本記事で取り上げられている「自力救済禁止の原則」については、あまり認知されていないので、補足のため解説しておきます。
「自力救済」とは、自己の権利を侵害された権利者が、法律の手続きによらずに実力行使で自己の権利を実現することです。
日本を含む近代国家では、自力救済は原則として禁止されています。
自力救済を認めると過度の暴力が用いられたり、権利がないのに実力行使がなされたりといったことが起こりかねず、社会秩序の維持が難しくなるからです。
たとえば、
自転車を貸して相手がなかなか返してくれない場合に、相手の家に行って勝手にその自転車に乗って帰ることは自力救済にあたります。
たしかに、自転車の所有権を持っているのは自分ですが、自転車は貸した相手に「占有」されている状態です。
法的に言えば、占有しているものはその占有者の財物とみなされ、たとえ真の所有者であっても占有者に無断で持ち帰ったりすると不法行為(窃盗罪)に問われる可能性があります。
管理費のような管理組合にとって債権を回収する場合も同様で、相手先に押しかけて暴力や脅迫と受け取られるような請求を行うことは自力救済=不法行為とみなされる可能性があるのです。
このようなリスクを回避するには、(多少お金がかかっても)弁護士等に依頼して粛々と法的措置を取った方が安全ということです。
なお、マンションによっては管理費の滞納を理由に、駐車場等の専用使用契約を解除できる旨あらかじめ管理規約に定められているケースもありますが、これは法的にまったく問題ありません。
ただし、契約解除された後も当該滞納者が駐車場を明け渡さないことが考えられます。
このような場合、たとえば管理組合がその車両をレッカー移動したりするのは、上記の通り「自力救済」に該当するのでNGです。
レッカー移動によって車両の使用を制限したということで、逆に滞納者から損害賠償請求を受ける恐れがあります。
管理組合としては、駐車場の明け渡し請求訴訟を提起のうえ債務名義(勝訴判決)を取得後、裁判所にレッカー移動等による車両の排除(=強制執行)を申請するのが「正しい」手順となるのです。
滞納者の氏名や、滞納の事実及び滞納期間等をマンション内で公表するのは、名誉毀損=不法行為に該当するのでしょうか。
本記事の解説と異なりますが、判例によれば、長期間にわたる滞納については、不法行為の成立を否定するケースもあるようです。
たとえば、6ヶ月以上の滞納者が実名を公表されたとして、不法行為に基づく損害賠償請求をした事案では、「長期間にわたって管理費等の支払を怠っている」事実をふまえ、「管理費等の自発的な支払を事実上促す措置として、長期滞納者の部屋番号と名称を館内に掲示することが違法とまではいうことはできない」と請求が棄却されています。
<参考サイト>
ただ、管理組合の理事として行った行為は、理事個人としての不法行為にもなり得るリスクもあるため、公表については慎重に判断したほうが良いのは確かなようです。
また、滞納の理由が、本人の失業・疾病等に伴う純粋に経済的な事情なら、氏名公表による督促の効果も期待できないと思います。
いずれにしても、督促や示談交渉を通じて長期滞納に至った理由を把握したうえで、慎重に対処することが大切です。
<参考記事>
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