物語のなかの集合住宅:第14回『愛の渦』後編――意味と無意味のあいだ

 

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「乱交パーティー」の無意味性を主張したカップル参加の彼氏とフリーター男は、小山田圭吾に重なる。反対に意味を見出そうとしたニート青年は、小沢健二に重なる。では、窪塚洋介演じる風俗店店員のこの発言は、どう考えればよいのだろう?

「ここには、意味ありげでかっけー(格好いい)ことなんか、ないっすから」

彼は、乱交パーティーに興じる男女を来る日も来る日もウンザリしながら眺め、無気力に拍車がかかり、その挙句にこの言葉を吐いた。

ただし、この一言で、ああ、やっぱり意味なんてなかったんだな(=小山田的態度)と結論付けるのは、早計だ。なぜなら窪塚は、このセリフを吐いたあと、乱交パーティー後の部屋を片付けながら、携帯(ガラケーである!)で、ある衝撃的なメールを受け取るのだ。劇中で彼が置かれている状況を加味すれば、そこには明らかに「意味」が発生している。そして彼は、ここで発生した「意味」と、さっき主張した「無意味」の間で戸惑うのだ。

果たして乱交パーティー(に例えられた何か)に、意味はあるのか、ないのか。そこに本気(マジ)の愛は存在するのか、しないのか。それについて思いを馳せるための補助線は、小山田、小沢、窪塚の「その後」に求めたい。

93年に「やはり無意味だ」と主張した小山田圭吾は90年代後半以降、メッセージ性を排したマニアックな音楽性を極めながら、国内外のアーティストと精力的なコラボを展開。世界的な評価を確立してゆく。

93年に「いや、意味はある」と主張した小沢健二はゼロ年代半ば以降、反グローバリズムを掲げた環境問題に関するフィールドワークに身を投じ、左翼的な平和主義を唱えるようになってゆく。

「無意味(小山田)」と「意味(小沢)」をファジーに行き来する90年代の空気を、10代で胸いっぱい吸い込んだ79年生まれの窪塚洋介は、2000年にドラマ『池袋ウエストゲートパーク』で大ブレイクを果たす。そして驚くべきことに、小沢とも小山田とも異なる方向性に自身を深化させてゆくのだ。それは、反・小山田としての過剰なメッセージ性と、反・小沢としての右翼性の体得である。

窪塚がブレイクから2年後に、企画段階から参加した映画『凶気の桜』(02)で演じたのは、「ネオ・トージョー(!)」という結社を組んで右翼に憧れる少年(しかもスキンヘッド)だ。この時期の窪塚は小林よしのりや石原慎太郎に心酔しており、「日本を立派に」「歴史を勉強しなければ」といったポリティカルな発言で周囲をドギマギもさせている。

窪塚は03年、24歳のときに元ダンサーの女性と電撃結婚(12年に離婚)。04年にはマンション9階から謎の転落事故(ダイブ?)を起こすというヤンチャぶり、というか迷走ぶりを披露する。

復帰後の06年からは卍LINE(マンジライン)名義でレゲエDJ活動をスタート。“ぶっ飛んだ宇宙を感じたい”(「ブンシャカラカ」)、“振り向かぬ武士道”“大和の血統“(「SAMURAI」)、“生き残るいつも最後は気合”(「日本のうた」)等、胸がザワザワするリリックを連発する。ちなみに「卍LINE」の由来は、卍(和・幸運・太陽・忍者)のLINE(放射線)という意味だそうだ。なんのこっちゃ。

窪塚の迷走、というか妙な右傾化と過剰なメッセージ性の獲得は、ゼロ年代以降の日本の状況を完全に先行していたように思う。現実の日本では、05年頃からネトウヨ(ネット右翼)が存在感を強め、ゼロ年代末には「絆・気合い」をやたらキャッチフレーズとして謳うヤンキー気質やブラック企業気質が勢力の版図を拡大した。10年代以降、右傾化にブーストがかかりまくっている現政権については、説明するまでもなかろう。

90年代風の空間で展開される『愛の渦』という物語は、90年代が終わった瞬間にブレイクした窪塚洋介を狂言回しに、ゼロ年代以降の日本を象徴させていた。その内容は、「意味」と「無意味」の間に放置された風俗店店員の戸惑いであり、店員を演じた窪塚洋介自身の芸能活動に帯びる迷走感でもある。

すべてにおいて自分の家族・血統を優先させる考え方である「家族主義」は、右傾化のひとつの表出系だが、本作に登場するマンションの部屋は、家族が住む場所としては使われていない。素性も知らぬ男女が一晩限りの享楽に溺れる場所だ。しかも劇中、そのマンションの他の部屋に家族が生活している気配は、いっさい描かれない。

家(イエ)なのに、家(イエ)としての機能をまったく果たさないマンション。そこに現れた90年代性。その反動としての家族主義。…の背後に広がるこの国の右傾化。

朝5時、乱交パーティー終了の時間。窪塚はそそくさとカーテンを明ける。朝の光が参加者たちを照らす。けだるげな参加者たちは少しばつの悪い顔をしながら、さっきまでの饗宴がもう終わってしまったことを、健康的な朝日によって強制的に気付かされる。

あれは一晩限りの夢だったのだ。これからまた、退屈な日常がはじまる。それはまるで、80年代のバブルを経て、その残り香だけが漂っている90年代のけだるい気分にそっくりだ。

 

[Photo by Mekkjp

『愛の渦』(2014年・日本)
原作・脚本・監督:三浦大輔
出演:池松壮亮、門脇麦、滝藤賢一、中村映里子、新井浩文、三津谷葉子、駒木根隆介、赤澤セリ、榎本時生、信江勇、窪塚洋介、田中哲司

 


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稲田 豊史
編集者/ライター。キネマ旬報社でDVD雑誌編集長、書籍編集者を経てフリー。主な分野は映画、お笑い、ポップカルチャー。編集担当書籍に「団地団 ~ベランダから見渡す映画論~」「人生で大切なことは全部フジテレビで学んだ」「全方位型お笑いマガジン コメ旬」「『おもしろい』映画と『つまらない』映画の見分け方」「『ぴあ』の時代」「成熟という檻 『魔法少女まどか☆マギカ』論」「特撮ヒーロー番組のつくりかた」などがある。URL

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