三菱地所コミュニティが開発した「自主管理支援アプリ」はマンション管理組合に受け入れられるか?

7月7日付けの「東洋経済オンライン」に「三菱地所がマンション「自主管理」を推す理由  管理のデジタル化で業界の課題を克服できるか」という記事が掲載されていました。

 

news.infoseek.co.jp

本記事の要約は、以下の通りです。

■ 大手マンション管理会社の三菱地所コミュニティから新設分割された「イノベリオス株式会社」がマンション管理業務のアプリ開発を発表した。

 

■ 全国には約10万強の管理組合があるが、同社は、2024年度までに全国3000組合での導入を目指す。

 

■ 同社が進めるのは、アプリを活用したマンション管理だ。マンション住民は、同社が開発したアプリ「KURASEL(クラセル)」上で、管理費の徴収や会計業務、マンション清掃や警備業務などの発注・支払い、駐車場利用の登録など日常の管理業務を行うことができるという。

 

■ つまり、アプリを利用すれば管理会社に委託することなく、住民自身が「自主管理」できるというわけだ。しかし、それはマンション管理会社の仕事が奪われることを意味する。自らの存在意義を否定しかねない発言の真意は何か?

 

■ 通常、こうした管理業務は「フロント」と呼ばれる管理会社の社員が行うが、これをアプリで代替する。アプリの利用料金は月額35,000円からだが、管理会社への委託と比べて年間200万円ものコスト削減効果が見込めるという。

 

■ アプリ開発の背景には、管理員や清掃員の深刻な人手不足がある。時給を引き上げなければ人が集まらない状況だが、マンション住民は原価上昇分を管理費(管理委託費)に転嫁することをよしとしないため、管理会社の収支採算は悪化していく傾向にある。

 

■ また、不採算のマンションからは、管理会社が撤退することにもなりかねず、その結果、適正な管理ができずに“管理不全マンション”が増加する懸念がある。

 

■ 業界紙の「マンション管理新聞」によれば、管理会社の7割以上が「採算の取れないマンションについては契約解除を申し入れることがある」と答えたという。

 

■  一方、アプリの導入によって、管理会社自身も恩恵にあずかれるという。第一に、このアプリは理事会運営と会計業務を代替するため、アプリの導入によって対面業務が減れば、フロントの負担軽減につながるという。

 

■ もう一つは、このアプリを導入しても、マンションの修繕工事は引き続き外注せざるを得ないため、管理会社は一定の収益源を確保しながら、不採算部門の切り離しが可能になる

 

■ ただ、アプリの導入で管理組合の課題がすべて解決されるわけではない。滞納管理費の督促には、最終的には個別訪問をせざるを得ないからだ。

 

■ また、組合総会の開催はアプリ上ではできず、出欠票や議決権行使書の回収は引き続き人力で行う必要がある。こうした労力を嫌った管理組合役員のなり手不足は、アプリだけでは解決できない。

■ コロナ禍では、管理員や清掃員といった感染リスクの高い職種の採用が一層困難になる。管理最大手の日本ハウズイングは、マンションやビルの管理員・清掃員など約1万人を対象に1人あたり最大3万円の特別手当を支給する。

 

■ 人手確保や定着に向けた人件費の引き上げが待ったなしの状況では、管理会社自体の業務効率化も急がれる。アプリの導入は住民だけでなく管理会社自身をも救うことになるが、普及には住民にどこまでメリットを訴求できるかがカギを握る。

<KURASEL の画面イメージ>

 

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このニュースに関する他の記事によると、イノベリオスの取締役は「KURASELは総会・理事会と会計部分を担うサービス。この部分を管理会社に委託せず自主管理することで、管理会社がいなくてもマンション管理が円滑にできる」と語っているとのことです。

 

この記事を読んで率直に感じたことは、

このアプリが本当に優秀な製品なら、他ならぬ管理会社のフロント自身が利用した方が管理組合のためにとって有益なのではないか?

ということです。

 

そもそも、輪番制で毎年交代する「素人」で構成される管理組合の役員が、年間税込50万円弱の負担を受け入れてこのアプリを導入し、毎月の管理費の徴収などの出納会計はもちろん、理事会や総会の運営を独力で行うとは到底考えられません。

 

しかも、以下のようなアプリでは代用できない人手のかかる業務も残ります。

・管理費の滞納者への督促

・総会の開催に伴う出欠確認や書面提出の督促

・総会議案書の説明(決算実績、来期の事業計画と予算案など)

・各種修繕工事の発注業務(相見積の取得、発注事務、支払事務)

 

さらに、この「アプリによるフロント代用構想」の根本的な欠陥は、

管理組合運営を円滑に行うのに最低限必要な専門知識や知見は管理組合内で共有されていることを前提にしていることです。

 

いったい分譲マンションの区分所有者のうちどれだけの割合の人が、

・「区分所有法」や「マンション管理適正化法」について理解しているのでしょうか?

・マンションの共用部と専有部の区別ができるのでしょう?

・自分のマンションの管理規約や使用細則を読んで理解しているのでしょう?

・総会の成立要件と決議要件を理解しているのでしょうか?

・組合会計の仕組みや財務諸表の内容を理解できているのでしょう?

・長期修繕計画の内容を理解しているのでしょうか?

 

少なくともこのアプリを販売する第一候補が、管理組合の役員とはとても思えません。

 

また、本記事によれば「管理組合にとってコスト削減が図れる」との触れ込みですが、役員の業務負荷が増えるという大きな「代償」を考えればとても割に合わないうえ、同業他社へのリプレイスも視野に入れれば、管理会社に委託を継続しながらコストを適正化することも可能です。

 

そもそも「人手不足や人件費の高騰で苦しい」のは、マンション管理業界に限ったことではありません。

 

従来から指摘されている通りアナログ色の濃い業界なのですから、人手不足や人件費の高騰をきっかけに日常業務のあり方を抜本的に見直し、効率的に行えるよう工夫できる余地はたくさんあるはずで、ひょっとするとこのアプリがそれに一役買える可能性もあるかもしれません。

 

以上の観点から、業務効率化アプリを導入すべきは、まずはマンション管理会社自身だと思うのです。

 

<参考記事>

 

yonaoshi-honpo.hatenablog.com

 

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村上 智史

村上 智史

株式会社マンション管理見直し本舗代表取締役・All About マンション管理士ガイド。早稲田大学卒業後、三井不動産に入社。土地オーナーとの共同事業、ビル賃貸事業、Jリート(不動産投資信託)の立ち上げに従事した後2013年3月退職。2013年5月 『あなたの資産を守る!マンション管理見直しの極意』(自由国民社刊)を上梓。無関心な住人の多いマンション管理組合が潜在的に抱えるリスクを解消し、長期にわたって資産価値を維持できるソリューションを提供することで、「豊かなマンションライフ」の実現を目指しています。

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