マンション修繕積立金の増額幅を大幅に圧縮できたワケ
2025/01/06
世間を騒がしている「傾いたマンション」の品質問題。マンションの品質に興味を持たれている人はかなり多いと感じます。
しかし、建築現場でいったいどのようにして品質を管理しているのかは、建設業界の人以外では分かりません。
なぜなら、建設業界と他の製造業とは同じ「物をつくる」という職業にもかかわらず決定的な違いがあるからです。
その違いとは、他の製造業が「工場」で物を作ってから「納品」するのに対して、建設業は「納品場所」で物を造るということです(例外は有るかもしれませんが)。
工場に配置したロボットでオートメーション化されることもなく、私が会社に入った15年前と同じく、今でも「人間」が建物を造っています。
つまり、建築現場という家に、協力業者の作業員さんが出入りしている状態。毎日やって来る常連さんもいれば、たまにしか来ない人もいます。
そして、協力業者の作業員さんをまとめるのが元請け会社(ゼネコン)の仕事なのです。
近年、元請け会社(ゼネコン)の中で特に叫ばれているのが「品質の低下を防ぐための技術の伝承」です。団塊の世代の離職に伴って今まで築きあげてきた「技術」が伝承されないことにより、建物の品質が低下していくのでは? という懸念であります。
だから、「品質問題」が起きているのでしょうか? 色々な記事などを読んでいると「品質問題の原因」として…
・技術の伝承
・コストがない
・工期がない
・作業員がいない
などがあげられていますが、会社に入ってからの15年を振り返った実感として、
「品質の考え方自体は、15年前よりずっと良い」
と言えます。
建設業は古い産業です。その中で幾度と無く失敗をくり返して学んでいく。自分の経験と照らしあわしても「品質の考え方自体」は向上しています。
では、なぜ昨今、品質問題が叫ばれるのでしょうか…?
私が、元請け会社(ゼネコン)の立場で肌身で感じている理由は、
「協力業者の専門性が上がり、能力もレベルアップしてきたから」
というものです。
ではなぜ、協力業者がレベルアップすると品質問題が起こるのでしょうか?
それは、チェック体制がだんだん麻痺していくからです。
具体例をあげると、私が新入社員の頃は、協力業者の人に「ここに壁を建てたいけど、位置が現場に出ていないから出しておいてくれ」とよく頼まれました。
当時は、「そのくらい図面があるんだから自分で出してくれよ」「こっちだって、忙しいんだからそんな暇ないよ」とブツブツ言いながら、位置を出していた記憶があります。
きっと、頼んだ作業員さんにも、位置を出す能力は有るはず。しかし、失敗したら自分の責任。現場監督の指示なら責任はない。そして、自分で出すのは面倒くさい。
色々な感情があって、作業員さんは元請け会社の現場監督に位置出しを始め色々な指示を仰いでいました。
しかし、私たち現場監督も人間です。特に若手職員だと経験も知識も無いので間違いを犯します。そうすると、作業員さんから現場で呼び止められて、
「お前の出した位置おかしくないか?」
「えっ? でも図面通りに出したはず…。あっ、間違えている!」
「そうだろう。何かおかしいと思ったんだよな」
「ありがとう」
何回ありがとうを言ってきたか分かりませんが、とにかく、幸か不幸か現場監督と作業員さんの「ダブルチェック体制」が確立されていたのです。
現在はというと、協力業者のレベルが上がってきたので彼らの作業する位置出しは、彼ら自身で行うことが多いのです。
ということは、もし間違えていたら最後。気付くのはかなり後のことになってしまうのです。
だからと言って、現場監督もチェックしない訳ではありません。とは言うものの、図面の段階で議論したり、現場で汗水たらして出した場所ならパッと見て「おかしいぞ」と気付くのですが、「人が出した位置が少し間違っているのかどうか」は、広い現場の中ではまず気付くことが出来ない、と言うのが本音です。
工程が進んできて、最後の段階で「間違い」に気付くのです。
最悪の場合は、気付かないかもしれない!
先程は「位置出し」について例を出しましたが、ひと昔前より少ない人数で仕事をこなしていかないといけない元請け会社(ゼネコン)にとって、今まで自分たちが行ってきた業務の一部を「自社のノウハウを持っていない派遣社員」や「協力業者」に振り替えていくという傾向にあります。
だから「協力業者まかせ」「派遣社員まかせ」の現場管理になって、現場監督が「気付かなかった」「知らなかった」という品質問題が起こってしまうのです。
こうした品質問題はどこの建設会社でも抱えている「建築業界の構造的な問題」であるとさえ私は感じています。
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